つまり、産業革新機構が資本の7割を出資=背後に控える官僚が経営のグリップを握るということを踏まえれば、まさに“血税による追撃の大風呂敷”なのである。
新会社社長に決まった半導体大手エルピーダメモリの大塚周一前最高執行責任者は、3社合計スタッフを会社発足から1年で2割削減し、来年3月期に単純合計で約5700億円と見込む売上高を2016年3月期には7500億円まで増やし、この時点で「株式上場を目指す」と胸を張る。
「新社長がどう豪語しようと、捕らぬ狸の皮算用になりかねません。そもそも、参加する3社は生まれも育ちも違うし、これを一本化するのは至難の業。下手にリーダーシップを発揮すれば3社の思惑が激突して収拾がつかなくなる。ましてや会社ではそれぞれ非主流として冷や飯を食ってきた面々です。片道切符で送り込まれ、もう本体に戻れないとなればどうなるか。親会社だってそんなことは承知しているから『どうすれば巧妙に血税を吸い上げられるか』に知恵を絞り、彼らをトコトン利用しないとも限りません」(経済記者)
いま関係者をあぜんとさせているのは、前述のように新会社がパナソニックから茂原工場を取得したことだ。買収額は公表されていないが、一説では“約300億円”。れっきとした血税投入にもかかわらず、産業革新機構はどういうわけか公表を渋っている。
「あの工場はパナソニックが日立から買い取って、液晶テレビの生産をしていた。テレビ事業の採算悪化に伴って工場をモバイル向けの生産ラインに“化粧直し”してセールに出した。この商談に革新機構がパクッと飛びついたのは“野田佳彦首相だから”との笑うに笑えない話がある。野田首相は松下政経塾の出身ですし、閣僚にも出身者が何人もいる。そこで保身術に長けた革新機構=経済産業省の官僚たちが“気を利かせた”結果、パナソニックの茂原工場に白羽の矢が立ち、東芝が期待した石川の工場はお呼びじゃなかった。そんな事情もあって、取得額の公表を渋っているのではないか…」(情報筋)
東芝とアップルでケチがついたとはいえ、石川工場に比べて買収額の分高くつく計算とあって「なぜパナソニックの茂原を」の声は当然出てくるだろう。それだけでも、日の丸連合の前途は早くも思いやられる。
息巻く日本政府主導の液晶事業は、まるでサムスンの参加していないトランプ“ババ抜き”のようである。