「ゴーン氏のルノーCEO退任説が飛び交った背景には、フランスのマクロン大統領との確執説と、ゴーン氏の野望説があったのです。フランス政府はルノー株の15%を所有する大株主ですが、マクロン氏は経済・産業・デジタル大臣時代からルノー・日産連合をルノーの主導にしたい急先鋒だったという。それが大統領になったことでエスカレートし、これに反対していたゴーン氏を更迭するためにいろいろ動いていたというのです」(業界誌記者)
一方、ゴーン氏の野望説とは、世界一の自動車会社グループの確立だ。
「'17年の販売台数でルノー・日産・三菱自動車グループは世界2位にまで上り詰めた。それを世界一までもっていきたい、という思いが、日々強まっていたといいます」(同)
昨年の自動車販売台数でトップは、中国に強い独フォルクスワーゲン(VW)が1074万台、ルノー・日産・三菱は1061万台。一昨年2位だったトヨタ自動車は、1039万台で第3位となった。VWは大型トラックも入れての台数で、それを除けばルノー連合は世界一の自動車販売アライアンスになったともいえる。
「しかし、これはかなり浮ついた数字。ゴーン氏は、3社のアライアンスを不動のものにしたいはず。そのためには、各社のCEOに就くよりも、全体を監督できるポストに移行したいと願っていたという。そのために昨年春、日産の社長兼CEOを外れ、副会長兼CEOの西川廣人氏にその座を譲ったのです」(同)
確執説と野望説の「真実度」は判然としないが、自動車業界関係者はこう解説する。
「フランス政府の姿勢は一貫している。原発大国のフランスは今、日本での事故により基幹産業が揺らぎ、失業率が10%を超えるという有様で、何としてでも経済を上向きにさせたい。そのためマクロン氏は、アメリカファーストならぬ、フランスファーストを打ち出している状況なのです」(経済紙記者)
その浮揚のキーワードこそが自動車産業で、ルノーとプジョーなのだ。そのため政府はルノーを動かし、業績のいい日産をルノー傘下に完全に収めさせたいのが本音だという。
「マクロン氏は以前から、ルノーの持ち株数を巡ってゴーン氏と激しい攻防を展開しており、現在も確執があるとされる。しかし、いざゴーン氏をCEOから外すとなれば、日産、三菱に精通する人材がいなくなってしまう。結局、やむなくゴーン氏を再任せざるを得なかったというのが実情のようです」(同)
そんな状況下、ゴーン氏の再任にあたってどんな駆け引きが行われたのか。
「両者の激しい条件闘争があったと見られています。中身は主に、今のルノーと日産の関係。ルノーは日産に対し45%を出資しており、日産はルノーに15%の出資をしている。ただし、日産はルノーに対して議決権がないという不均衡な関係となっており、ゴーン氏は、その関係の改善を条件にして、フランス政府とやりあったといいます」(同)
さらには、フランス政府の株の比率を下げることについても、話し合った可能性があるという。
「フランス政府にとってみれば、ゴーン氏が'22年のCEO退任後も、日産とルノーがさらに密接な関係が維持できる体制作りを求め、ゆくゆくは合併する方向を持ち掛けた可能性が高い。表面上、最終的にゴーン氏の高額年俸10億円の引き下げで合意といった形にはなっていますが、それ以外にも様々な材料について話し合われたと思われます」(前出・業界誌記者)
結果的に、ゴーン氏とフランス政府は今回、痛み分けに終わったということなのか。
一方、ゴーン氏にとっては、これからが厳しいとの指摘もある。ルノー、日産、三菱の中の要は、なんといっても日産。その日産に、若干の陰りが見え始めているからだ。2月上旬発表の'17年4〜12月の営業利益は3642億円で、対前年比27.6%減。国内の無資格検査問題と北米市場の落ち込みの影響をいまだ引きずっている状態だ。
「北米市場は今、セダンからSUV、ピックアップトラック人気に移行しているが、そこを読み切れず、セダンなどの在庫が膨らむ問題が出ている。今後、最大の決戦場となる中国でも電気自動車を重視しすぎ、不安視する声も出ているのです。もし日産の経営環境がさらに厳しくなれば、ゴーン氏の影響力は前倒しで失速しかねないのです」(同)
ゴーン氏と一心同体の日産が揺れる日は続く。