「これが明らかになったのは今年の新年早々です。持ち株会社のキリンホールディングスは、三宅占二社長の後継一番手と目されていたビバレッジの前田仁社長を更迭し、首藤由憲副社長の社長昇格を発表した。前田さんはキリンビール時代に『一番搾り』や『淡麗』、『氷結』などの看板商品を開発した実績を買われ、ビバレッジ再建請負人として派遣されたのですが、地盤沈下を食い止められなかった責任を取らされたわけです」(業界関係者)
言い換えれば100社以上のメーカーがひしめき、業界筋が言うには「利益よりも量で勝負する」という清涼飲料の世界は、ビールの成功体験が通用しないということ。後を託された首藤社長は、早々にアサヒ追撃のノロシを上げなければどうなるかは明らかだ。さらにサッポロホールディングスがポッカコーポレーションを買収、来年には『ポッカサッポロフード&ビバレッジ』を発足させ、ライバルのアサヒに真っ向勝負を挑むとあってはなおさらである。
サントリーも負けていない。同社は昨年、市場縮小で苦戦を強いられている各社を尻目に、ビールのシェアが13.3%と過去最高を更新した。その余勢を駆って今年1〜9月には14.3%までシェアを伸ばした。ビールだけでなく、同社は『南アルプスの天然水』などミネラルウオーターにも積極的だ。
この分野はアサヒが『六甲のおいしい水』、キリンが『アルカリイオン水』などを販売。震災特需の追い風を受けて市場が拡大するなど絶好調をアピールしているが、一方これに文字通り“水を差す”話がある。一般家庭で使用する水道水は水道法の定めで50項目の検査基準があるのに対し、ミネラルウオーターは食品衛生法で18項目の基準が定められているだけ。それどころか発がん性物質とされるヒ素は、水道法では1リットル当たり0.01ミリリットル以下と定められているが、食品衛生法では0.05ミリリットル以下と、タダ同然の水道水に比べて実に5倍も甘いのだから皮肉である。
とはいえ、水道水では酔えっこない。清涼飲料やミネラルウオーターまた然り。各飲料会社の多角化戦略が、われら庶民の願う、安くて安全でおいしいビールを堪能することに寄与してくれるなら、それはそれで大変結構なことなのだ。