自民党支持者で杉並区在住の60代男性は「サングラスで有権者の前に立つ神経を疑いますよ。福田首相の唐突な辞任でこれだけ批判を浴びているのに、全然反省の色が見られない。自民党は終わったと思う」とタメ息をついた。
町田市の主婦(52)は「丸山さんはタレント気分が抜けていないんでしょう。サングラスでカッコつけてどうしたいのか?テレビに出ているころは好きだったけど、演説内容も全くおもしろくありませんでした」と不快感をあらわにした。
午後3時半すぎ、ハチ公前で候補者登場を待つ群衆の目を奪ったのは丸山氏だった。ベージュ系のスーツに黒いキャップ、マフィアが好みそうなサングラスをかけたスタイル。街宣車の壇上から白い歯をのぞかせ、ガッツポーズまで見せつけた。
現役の国会議員がグラサン姿で応援演説に立つなど前代未聞。これには報道陣ばかりか、各候補を応援するため集まった自民党支持者らも呆気に取られるしかなかった。
石原氏には深谷隆司元総務会長(72)、小池氏には佐藤ゆかり衆院議員(47)、麻生氏には島村宜伸都連最高顧問(74)、石破氏には鴨下一郎厚生労働副大臣(59)がそれぞれ応援に駆け付け、きわめてまじめな推薦の弁を述べた。しかし丸山氏は、地味キャラの与謝野氏を目立たせようとしたのか、肩に余計な力が入ってしまった。
司会者から「まるやままさや」と名前を間違えて紹介されると、すかさずズッコケながら「ちょっと、ちょっと、まるやまかずやでございます。『行列(のできる法律相談所)』の弁護士です」とツッコミ。これでエンジンがかかった。
「私もみんなから推薦人になってくれと言われた。悩んだ末に与謝野さんに決めた。数年前、与謝野さんはがんになりました。無理のない余生を送ろうというのが人情ですよ。ところが『俺の残った命を日本のために捧げたい』と。そんなにいい顔してないし、まあ、ほかの候補も小池さん以外はいい顔してないけど」
完全にスベった。人情に訴えたいのか、おふざけなのかさっぱり分からない。痛々しかったのは、冷笑を浮かべる聴衆までいたことだ。次第に語調は荒くなり、最後は「人気取りじゃない!悲痛な叫びなんです!」などとかすれ声で絶叫した。サングラスで登場しておいて、今さら説得力があろうはずもない。
昨年秋の総裁選、「福田VS麻生」でも渋谷ハチ公前で街頭演説対決があった。1万人以上を集めた昨年に比べて明らかに人出が少なかった。
自民党は、この日の聴衆を約5000人、最大ピーク時約8000人と発表したが、足早に通り過ぎる人も目立ち、少ないときはせいぜい3000人程度だった。それだけ有権者の自民党を見る目は厳しく、各候補と応援弁士はそうした空気も読んで混乱の謝罪と党再生を誓った。さすがの丸山氏も演説中はサングラスを外したが、空気は全く読めていなかった。
もっともKY弁護士どうこう以前に、各候補の演説も“総裁選後”を見越して迫力に欠けた。投開票日まで全国各地で街頭演説バトルが続くが、早くも候補者乱立の勢いはしぼみ始めている。
○石破氏「私は忠犬ハチ公に」
福田首相の突発辞任の謝罪と、党改革&再生は全候補共通のキーワードとなった。優勢が伝えられる麻生氏は、両脇に並んだ候補を「みなさん多彩。年配の方(与謝野氏)、若い方(石原氏)、女性の方(小池氏)、防衛ヲタク(石破氏)」と紹介し、最後に「漫画ヲタク」と自分を指差すパフォーマンス。
小池氏は「最近の都市部の暑さは尋常ではない」などと地球温暖化対策への取り組みを訴えた。石原氏は「マネーゲームにうつつをぬかしている人だけが札束を手に入れることができる今の経済の仕組みはおかしいんじゃないか」と力説。与謝野氏は「心配なのは10年後、20年後。日本の経済はしっかりしているか」と疑問を投げかけた。
おもしろかったのは石破氏だ。「防衛庁長官になったとき、『あなたは動物に例えると何ですか?』と聞かれた。あまりかっこいい動物に例えて実体と違ってもよくない。『できれば忠犬ハチ公のようでありたい』と答えたことをよく覚えています。私はあのハチ公の話がとても好きです。来る日も来る日も、ご主人の帰りを待ち続ける。いまでも読むと涙が出ます。われわれも国民、主権者に忠実でなければならない。このハチ公の前で話をさせていただく、そのことをとても感慨深く思います」と話した。