(1)際立って高い出塁率
青木は今季打撃好調で打率3割1分1厘(6月3日現在)はナ・リーグ打撃十傑の9位。そのうえ選球眼がいいため四球が多く出塁率が際立って高い。ジャイアンツは昨季ワールドシリーズ制覇を果たした強豪チームだが、トップバッターだけは適材が不在で、一番打者の出塁率はリーグ平均より多少低い3割1分4厘だった。それが、今季は出塁の鬼=青木の加入で様相が一変。ジ軍の一番打者の出塁率は6月3日現在3割8分9厘でリーグ1位だ。
(2)メジャー1三振をしない男
青木は追い込まれても相手投手の決め球をカットしてしのぎ、滅多に三振しない。ブリュワーズに在籍した一昨年は三振に倒れる頻度が16.9打席に1回で「メジャーで一番三振しない男」になった。ロイヤルズでプレーした昨季はやや三振が多かったが今季は一昨年のペースに戻り、三振数がリーグ最少。5月8日から6月1日まで85打席連続無三振も記録し「メジャーで一番三振しない男」に返り咲く可能性が高くなっている。ジャイアンツは本拠地(AT&Tパーク)がメジャー屈指の広い球場であるため、一発ではなく打線のつながりで勝つチームだ。そのため青木の「三振しない能力」は球団首脳から高く評価されている。
(3)1点が欲しいときのキーマン
ジャイアンツはリリーフ陣が強力で接戦に強いチームだが、機動力を発揮できる打者が不在で昨年は盗塁と送りバントの数がリーグ最少だった。そのため1点を欲しい場面で足や小技を使った攻撃ができなかったが、今季は盗塁とバントに長けた青木の加入でチームの盗塁数と送りバント数がリーグ平均レベルに増加している。
(4)意外に広い守備範囲
青木は昨年ロイヤルズでプレーしたが、4人目の外野手に守備範囲が驚異的に広いダイソンがいたため、ゲーム終盤にダイソンが青木に代わって守備固めに入ることが多かった。それによって守備力が過小評価されることになり、ジャイアンツも守備に関しては期待していなかった。ところがレフトで使ってみると肩は並だが守備範囲の広さは予想していたよりずっと広く、広いAT&Tパークにピッタリで、守備面での貢献も大きい。
ジャイアンツファンの多くは開幕前、青木に大きな期待をいだいていなかった。年俸がメジャーの平均レベル(400万ドル=4.8億円)で、年齢も30代半ば、オープン戦での成績も悪かったので、レギュラーが務まる選手のようには見えなかったためだ。
ところがいざシーズンが始まると、走攻守すべてでハイレベルな活躍を見せ、不動のリードオフマンとなったため、青木ファンが急増。現在進行中のオールスター投票では6月2日時点で101万票を獲得しナ・リーグの外野手部門の次点(4位)に付けている。
外野のイスは三つあり、順位を一つ上げて3位に入ればオールスターにスタメンで出場できる。6月2日現在、3位は昨年の本塁打王ジャンカルロ・スタントンで差は20万票ほどだ。
スタントンは今季も打点王レースの先頭を走っているが所属するマーリンズは不人気球団だ。しかも今季は負けが込んでファンの意気も上がらない。それに対し、人気球団のジャイアンツは今季も好調なのでファンも応援に熱が入っており、オールスター投票の締め切り前には大量の駆け込み票を期待できる。
それが不十分でファン投票で選出されなくても、現在の打撃成績を7月初旬までキープしていれば、監督推薦で出場できる可能性もかなりある。今年のオールスターはジャイアンツ、ボウチー監督がナ・リーグの指揮を執るからだ。
大リーグは球団数が日本の2.5倍あるため、メンバーに選出されることは容易ではない。年俸1000万ドル超の名のある選手でも、出場経験のない選手がゴロゴロいる。
青木が選出されれば、大きな名誉になるだけでなく、来季以降の契約にも好材料になるだろう。
ジャイアンツとの契約では今季550打席をクリアすれば、来期は年俸550万ドルでジャイアンツに残留できることになっている。しかし、それは今季の活躍に見合った金額ではない。青木が欲しいのは3年3000万ドルレベルの複数年契約だと思うが、メジャーでは30代半ばになった選手は極端に冷遇されるので、複数年契約はたやすいことではない。それを勝ち取るためにも、オールスターに出場して箔を付けておきたいところだ。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。