「オーストラリアには勝つでしょう。勝たねばなりません。日本代表は強化費を使って計画的なチーム作りをやり、その成果というのは出てきていますから、W杯や五輪なら常時出場できるぐらいの力はあります。しかし出場はできても、本戦に進んだときに勝てるサッカーをし、さらに上位を狙えるかといえばどうでしょうね」
現状で世界の壁はまだまだ厚いということでしょうか?
「それは違うと思います。選手個々の能力は確実に上がっているから大丈夫。問題は、チーム作りの方向性なんです。今の日本のサッカーは、負けないサッカー・勝てるサッカーであって、“勝つサッカー”ではない」
具体的には?
「日本にはエースストライカー、つまり点取り屋がいない。他の国はストライカーを中心に点が取れるスタイルというのがきちんとしている。それが勝つサッカーです。日本にはそれがなくて、とにかく誰かが点取ってくれたらいいわけです。そんなサッカーは世界には通用しないと思うんです」
なぜエースストライカー不在の状況が続くのでしょう。
「それは指導者、指導法に問題があるように思います。そもそも、エースストライカーを目指そうなんていう選手は、自分勝手で目立ちたがり屋が多い。そして、そういう選手には『任せるからアカンかったら責任取れ』で、任せておけばいいんです。でも、今の指導者はそんなのがいたら、まず頭を押さえつけようとする。ジュニアでもそう。小さいときからそんな指導を受けていたら、それはみんなこじんまりした選手ばかりになります。それでは面白くないし、またチームも強くならない。
サッカーは日本語では“蹴球”と書く。文字通りボールを蹴ってゴールを狙い、点を取るゲームなんです。だからメーンはシュート。なのに、最近のチームはシュートの練習よりパスや防御の練習ばかりさせている気がして仕方がありません。ボール回しはウオーミングアップで済ませておいて、もっとシュートの練習をさせるべきなんです。小回りを利かせたパスは普通の練習でもできるけど、30メートルのロング・シュートは、相当練習しなければ無理ですからね」
ストライカーならではのご意見です。
「それが普通だと思うんですよね。目の前に広がる敵に体当たりで挑み、これを全力で突破してゴールを目指す。これがサッカーの醍醐味。パス、パス、パスでチョロチョロつないでいっても、相手にダメージを与えるサッカーはできません。だから僕はいつも『サッカーは格闘技』と言っているんです。これを忘れてはいけません」
最後に、サポーターやサッカーファンに伝えたいことを。
「選手をアイドル的な人気だけでワーワー言うのではなく、プレーの具体的な良しあしをしっかり見てほしいですね。試合では、駆け引きなんかにももっと注目してもらいたい。芝居でいう見巧者。そんなサポーターが増えたら、日本のサッカーはもっと変わると思います」
釜本邦茂 1944年京都市生まれ。山城高−早大を経てヤンマーディーゼルへ。強力なシュートを武器に、天才的なプレーで日本リーグで一時代を築く。'68年メキシコ五輪では得点王。'84年に引退後、松下電器−ガンバ大阪の監督としてJリーグ発足に参加。元・参院議員。現在は日本サッカー協会顧問。