検察官の論告求刑の声が法廷内に響くと、記者たちが一斉に立ち上がり、速報を打つために退室した。最近の性犯罪厳罰化の流れでも、「無期懲役」の求刑は極めてまれだったからだ。
三重県鈴鹿市や四日市市で、女性への性的暴行を繰り返したとして、強姦致傷や住居侵入などの罪に問われた元ホンダ社員・原田義人被告(46)の裁判員裁判の論告求刑公判が開かれた6日、津地裁(田中伸一裁判長)での一幕だった。
付近では、2010年頃から10件以上のレイプ被害が報告され、警察が懸命に捜査を続けていた。
「被害女性らは、恐怖のあまり記憶も曖昧で、犯人の年齢に関する証言もバラバラ。直接の決め手となる物証も乏しく捜査は難航した。逮捕のきっかけは鈴鹿市内で挙動不審の男を職務質問し、窃盗容疑で署に任意同行したことだ」(捜査関係者)
その後、'10年1月から'17年6月までの間に、当時17〜42歳までの女性15人に対し、強姦致傷3件、強姦10件、強姦未遂2件を起こしたことを自供したという。
検察によれば、女性を脅すための刃物や顔を隠すためのストッキング、拘束用のベルトなどを事前に用意し、入念な下見をした計画的犯行。ほとんどが女性の自宅に侵入し、寝込みを襲ったものだった。
「本人は、10年ほど前から小遣い稼ぎのつもりで深夜に盗みを始め、無施錠の一人暮らしの女性が住む家を見つけたことから、アダルトビデオの影響でレイプを思いついたと供述しています」(地元記者)
原田被告は長崎県諫早市の出身。会社側の説明では、昨年8月まで長年、ホンダ鈴鹿製作所で「四輪車の製造に携わる一般従業員」として勤務していたという。
「鈴鹿市内の住宅に、奥さんと男ばかり3人の子供と暮らしていました。話し好きで下ネタも好きだったけど、仕事で目立ったトラブルはなく、そんなことをする男には見えなかった」(同僚)
被害女性3人の意見陳述書を検察官が代読すると、原田被告はうつろな表情を浮かべ、一点を見つめながら耳を傾けた。
被告人最終陳述では、「残りの人生で罪を償えないが、できることは刑務所に入ることだけ。そこで反省して人生をすごしたい」と述べたが、被害者たちの心の傷は一生消えない。