きっかけは世論調査の結果だ。毎日新聞が5月27日と28日に行った電話世論調査で、都議会議員選挙の投票先を聞いたところ、自民党が17%で、都民ファーストの11%を大きく上回ったのだ。このままでは勝てないと踏んだ小池知事は、都民ファーストへのテコ入れのため、代表就任を選んだのだろう。さすがに、政党代表になったら自民党を離れざるを得なくなったのだ。
これから小池知事は、慎重に支持率の動向をみていくことになるだろう。問題は、代表就任を果たしても都民ファーストの支持があまり上がらなかった場合だ。そのとき、小池知事の選択肢は二つある。
一つは、築地市場の豊洲移転を決断せず、そのまま都議選に臨むことだ。この方法は一種の安全策と言えるが、連携する公明党と合わせても、都議会で過半数を取ることは難しいかもしれない。議会で過半数を取れなければ、小池知事の掲げる東京大改革は覚束なくなる。
もう一つの選択肢は、豊洲移転を断念し築地市場再整備を掲げることだ。そうなれば、豊洲早期移転を掲げる自民党との明確な対立軸を築ける。しかし、そうすると、豊洲移転賛成派の都民を敵に回すことになるし、良好な関係を築いた公明党とも、移転問題で対立することになる。だから、小池都知事にとっては、危険な賭けになるのだが、私は十分に可能性がある手段と考えている。
シナリオはこうだ。
まず、「都民の安全」を前面に打ち出して、豊洲市場は安心できないとアピールする。そのうえで、4月に市場問題プロジェクトチームの小島敏郎座長が示した築地市場を現在の場所で再整備する案を公約で打ち出すのだ。
小島私案は、場内で移転を繰り返しながら建て替えを進める「ローリング工法」だったが、6月5日に出された市場問題PTの報告書では、いったん豊洲移転した後、築地に戻る案も示されている。
いずれにしても、年間100億から150億円の赤字を垂れ流す豊洲よりも、築地残留は、低コストで済む。それを強く主張すればよいのだ。ただし、せっかく作った豊洲市場の建物を取り壊すのはもったいない、と誰もが思うだろう。
それについては、妙案がある。実は、東京オリンピックの期間、メディアセンターが置かれる東京ビッグサイトやレスリング等が行われる幕張メッセは使用できなくなる。ビッグサイトは、'19年4月から準備工事が始まるから、深刻な展示場不足が生じるのだ。
そこで、豊洲市場をイベント会場として活用し、その後の需要動向を見極めながら、不要であれば売却すればよいのだ。
この方式であれば、東京オリンピックに照準を合わせたイベントの企画も可能になる。ただ、豊洲市場のイベント向け改修には少々の時間が必要だから、小池知事は早く決断をすべきだろう。