お茶の生産団体などが加盟する公益社団法人『日本茶業中央会』などが会員の日本茶輸出促進協議会(東京都港区)事務局は、その背景をこう分析する。
「最大の輸出国はアメリカで50%前後を占めるが、そのアメリカを中心に欧米でヘルシー志向が強まったことが大きな要因。抹茶を使用した抹茶カフェやアイスクリームなどの海外人気も高くなり、需要が急増しているためです」
日本茶の輸出は戦後、飲料水の多様化もあって減少し、'91年に253トンと底をついた。その後は徐々に増加して2005年には1000トン、'10年には2200トン、'15年に4100トンまで増加。お茶輸出振興の旗振り役の農林水産省・食料産業局輸出促進課の担当者も、その背景をこう分析する。
「'13年に“和食”がユネスコの無形文化財になったことも大きい。和食にはお茶、そして日本酒ですからね。そうした意味で和食がさらに拡大すると思いますので、お茶と日本酒の今後の伸びシロはさらに期待できます。国では'20年までに農産物も含め総額1兆円輸出プロジェクトを掲げていますので、さらにPRに力を入れていきます」
ここで断っておくが、「お茶の輸出増」という「お茶」は、あくまで純粋な茶葉に限ってのもの。そのため農林水産省の関係者は、こうも言う。
「茶葉だけでは100億円程度だが、お茶をペットボトルにしたもの、つまり清涼飲料水の分野まで入れると、裾野は限りなく拡がります。実際、海外の人たちに言わせれば、日本のお茶はペットボトルも含めて見ていることが多いし、和食にお茶のペットボトルという組み合わせもよくあります」
ペットボトルのお茶と言えば、トップメーカーは伊藤園だ。同社の海外での評価はすこぶる高く、消費量も年々上がっているという。昨年、同社は米経済誌『フォーチュン』の、“社会に変革をもたらした企業”として、日本企業では最高位の18位に挙げられた。
伊藤園の広報部担当者はこう語る。
「海外への輸出額は年々増加していますが、特に伸長率が高いのは抹茶製品で、'16年におけるアメリカへの抹茶製品の輸出は、前年比約2倍になっています。また、シリコンバレーでは地道な営業活動を行い、ある企業では『お〜いお茶』が毎月3000ケースも飲用されるなど、現地IT企業の中ではブームを起こしています。理由は、緑茶は無糖飲料で健康的な点。しかも、水とは違うナチュラルな風味があるとして人気が高まったことが挙げられます」
海外での緑茶はティーバッグが主流。そのため緑茶本来の美味しさが知られていない場合も多い。そこで、一部企業では製法に工夫し、うま味成分や渋味成分が急須で入れた濃度と同等になるドリップ式の緑茶を開発、人気が高まっているという。また、抹茶のように粉末タイプの健康茶を開発した企業や、オーガニック茶で攻勢をかけるところもある。
一方の日本酒はどうか。
経産省所管の日本貿易振興機構(JETRO)の日本酒輸出担当部局関係者が説明する。
「日本酒の輸出は毎年10%前後ずつ伸びています。酒蔵さんの努力があり、これを官がバックアップして実を結び始めたのです。さらに、世界各地でのプロモーションも大きい。世界のワイン品評会であるIWCに'07年、日本酒の世界一を決めるSAKE部門が設けられ、一流ソムリエに理解され始めたのです」
酒造メーカーでは、例えば、今や日本酒好きなら誰もが知る純米大吟醸酒『獺祭』を醸造する旭酒造(山口県岩国市)は、海外22カ国に販路を広げ、輸出は売上の10%にも上る。将来の世界市場の目標を50%と定め、さらに輸出、海外直営店の展を拡げる。
「加えて旭酒造は、ユダヤ教徒が口にできる清浄食品基準『コーシャ』を日本酒として初めて獲得。全世界に広がる巨大なユダヤ市場も射程に入れました」(日本酒メーカー関係者)
この『コーシャ』認証取得には、玉乃光酒造(京都市)、南部美人(岩手県二戸)なども続く。また、直営店経営では月桂冠(京都市)も共同でロンドンに高級居酒屋を展開している。
兵庫の日本盛(西宮)の広報担当者も、海外戦略についてこう明かす。
「香港、シンガポールなどアジアに積極的に輸出を展開します。人気の純米大吟醸もいいんですが、今後は独自商品、缶入り生原酒販売で売り上げ増を目指します」
国内市場が先細る中、各メーカーは質の向上を目指してシノギを削るとともに、世界に打って出る!