「稽古十分とは言えない状態で、痛みが残っていると見られる中で頑張って出場したが、無理だったのかなと。委員の中には名古屋を休場しても治してもらわないと、という意見もあった」(北村正任委員長)
横審は成績不振の横綱に対し「激励」「注意」「引退勧告」を行うことができるが、今回の“休場勧告”は異例と言える。
それにしても、五月場所の終盤は完全なトーンダウン状態だった。
新横綱人気で沸きに沸いた大相撲夏場所(東京・両国国技館)だったが、さあこれから、という5月24日の11日目。話題の中心だった横綱稀勢の里(30)が先場所で痛めた左肩などが完治していないことを理由に休場。まるで冷水を浴びせられたようにしぼんだ、後味の悪い場所になった。
「まあ、やむを得ない判断でしたね。相手のレベルが上がった9、10日目はまったく相撲にならず、連敗して4敗目。あれ以上、土俵に上がり続けていたら何敗するか分からない感じでした。これまで横綱が皆勤して負け越したのは、大乃国、若乃花(3代目)の2例があるのみ。もし稀勢の里もそうなったら、せっかくの大相撲人気に水を差しかねないところでした。協会関係者も休場の報にホッとしていましたよ」(担当記者)
先場所、ケガを押して奇跡的な逆転優勝をやってのけ、日本中を熱狂させた稀勢の里だったが、その代償は決して小さくはなかった。場所後の春巡業を全休し、治療やリハビリに専念したが、いかんせん、時間が足りなかった。もともと出場するのが無理だったのだ。
「まだ始めたばかりだし、本調子じゃないので」
番付発表後も、そう言って稽古は非公開。初日の8日前から5日連続の出稽古で仕上げたが、見るからに付け焼刃的で、普段の力強さは戻らなかった。
「左を全然使っていない。万全にはほど遠い状態だ」
稽古を取材した元横綱でNHK解説者の北の富士さんも、そう言ってクビをひねり休場を勧めていた。
しかし、稀勢の里は初日の3日前、「出ます。休みません」と慌ただしく出場を宣言。周囲の異常な盛り上がりを潰すようなマネはできなかったのだ。
「先場所も優勝できたのだから、今場所もなんとかやれるのでは…」
そんな安易な考えがあったのかもしれない。
だが、それはなんとも甘い判断だったことが証明された。2連覇して自分の力を過信したのかもしれない。これで来場所は一段と厳しくなった。同じ失敗はできないので、プレッシャーも大きくなるからだ。
果たして、来場所までにちゃんとケガは治るのか。名古屋場所の初日は7月9日。春場所から夏場所までよりも間隔は短い。稀勢の里が早くも窮地に陥った。
この様子だと、4横綱時代は長くは続きそうにない。鶴竜、稀勢の里と2横綱が休場し、日馬富士も安定していない。全勝優勝した白鵬もかつての“鉄板の強さ”は見られないし、名古屋場所の4横綱の序盤戦が心配だ。