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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第6回 「買いオペレーション」

 中央政府は「子会社」である中央銀行に国債(借用証書)を買い取らせることで、借金の返済・利払い負担から解放される。これを「不公平だ!」と思った人は、国家の仕組みを理解していないことになる。
 読者の財布の中に入っている紙幣(1万円札など)にしても、日本銀行が国債を買い取る代金として市中に供給したものだ。日本銀行に「国債を買い取るな!」と主張する人は、「日本円の通貨を発行するな!」と言っているのも同じなので、物々交換の原始共産社会を実現するべく努力して欲しい。

 政府が日銀に国債を買い取らせることが可能なのは、「利益」を追求できない経済主体だからだ。日本政府(地方自治体含む)は、実はNPOなのである。NPOである以上、政府は利益を追求してはいけない。国債発行にせよ、通貨発行にせよ、政府は「公共」のために行うべきで、自らの利を追ってはならないのだ。
 そういう意味で、「政府に損をさせるな!」「政府は赤字事業をヤメロ!」などという人は、国家の概念をまるで理解していないことになる。

 そもそも黒字になる(利益が出る)事業ならば民間がやるべきだ。政府が「利益が出る」事業に乗り出すなど、民業圧迫もいいところである。短期的には利益が出なくても、長期的、マクロ的(国民経済的)に国民のためになるからこそ、政府は各種の事業を遂行するのだ。
 また、国民全体のためになるのであれば、政府は超長期の国債を発行することも可能であるし、中央銀行に国債を買い取らせることで金利を抑制することもできる。
 利益を追求すべき企業と、NPOである政府を同一視してはならない。

 短期的には利益が出ないが、長期的、国民経済的には国民のためになる事業の代表株が、ずばり公共インフラ(道路など)の建設だ。いわゆる公共事業である。
 公共投資、公共事業を実施するに当たり、政府は60年償還の建設国債を発行する。なぜ建設国債の償還期間が60年かといえば、公共事業で建設されたインフラは数十年スパンで国民が使用し続けるためだ。
 ところで、現在の日本国民が使用しているインフラは、主に高度成長期の公共事業で建設された。道路や橋梁など、代表的なインフラ建造物の寿命はおよそ50年。コンクリートの劣化や鋼材の腐食により、築後50年を超えたインフラ建造物は、大々的にメンテナンスを実施するか、あるいは造り替えなければならない(さもなければ、国民に危険が及ぶ)。
 さらに、東日本大震災を受け、国民の「安全」に対する需要は高まっている。しかも、現在の日本はデフレという「通貨不足」に悩んでいる。
 日銀はより多額の日本円の通貨を市中に供給しなければならない。
 というわけで、自民党は「建設国債発行」「日銀の建設国債買入(通貨供給)」「公共事業(国土強靭化など)」のパッケージというデフレ対策を、総選挙の公約に掲げたわけである。

 ちなみに、安倍総裁は日本銀行の建設国債買入について、
 「政府が国内の銀行に建設国債を発行し、お金を借りる。日本銀行が国内の銀行から建設国債を買い入れ、日本円の通貨を供給する」
 と、いわゆる買いオペレーションを主張した。買いオペレーションとは、日本銀行の「通常業務」である。要は、「政府は公共事業拡大のために建設国債を“銀行に”発行するので、日本銀行は買いオペで金利を調整して欲しい」という話である。

 ところが、安倍総裁の発言を一部のマスコミが歪め、「安倍総裁が日銀直接引受を要求している!」と大騒ぎしている。
 日銀の直接引受とは、銀行を介さず、政府が直接的に国債を日本銀行に買い取らせることだ。日銀の直接引受は、財政法第五条により「特別な事由」があり、「国会の議決」を経ない限りできないことになっている。
 国会の議決が必要であるため、自民党が総選挙で過半数を得たとしても、参議院が反対に回れば不可能だ。それ以前に、買いオペレーションも直接引受も、経済的な効果は変わらない。マスコミは安倍総裁の「買いオペレーションで」という発言を、イメージが悪い「直接引受」にすり替え、政策の信頼性を貶めようとしているわけである。
 現実問題として、日本は「建設国債発行」「日銀の建設国債買入」「公共事業」をワンパッケージで回さない限り、デフレから脱却することはできない。
 無論、上記の政策を実行に移すと、市中に新たな日本円が供給され、インフレ率が上がる。とはいえ、現在の日本は「デフレ」なのだ。日本の消費者物価指数の対前年比は、他国と比べると惨めになるほどに低い(低すぎる)。

 というわけで、日本は一定のインフレ目標を設定し(例:3%)、目標を達成するまで日本銀行は無制限に(銀行から)国債を買い取り、日本円の通貨を供給していく必要がある。
 日本銀行が供給した通貨は、日本政府が建設国債で借り入れ、公共投資、公共事業で「所得」「雇用」を創っていく。
 ごくごく当たり前の「デフレ対策」なのだが、なぜかこれがマスコミから総バッシングされているわけだから、日本というのは本当に不思議な国だ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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