昨季、カブスにはこんなデータも残っている。『BLSV率』だ。救援失敗を数値化したもので、先発投手が「3点以上のリード」を持って救援投手にバトンタッチした後、同点、もしくは逆転された試合の割合を示すもの。そのBLSV率は42.86%。ナショナル・リーグのワーストである。さらに、リリーフ投手の被出塁率35.5%もリーグワーストだった。
その原因のほとんどに関わっていたのが、クローザーのカルロス・マーモルである。また、12年度オフはクローザータイプの投手が少なかった。藤川を獲得した際、カブスは「手薄なブルペン陣を強化するため、セットアッパーを予定し…」とコメントしたが、マーモルの「ノーコン」が治らなければ、藤川と入れ換える可能性は高い。制球難がいきなり治るとは思えないので、藤川のクローザー抜擢を「規制路線」と見る米メディアも少なくないのだ。
「マーモルは今季が3年契約の最終年です。藤川が『結果』を出せば、シーズン途中でマーモルを放出する可能性も出てきました」(米国人ライター)
このマーモルの成績だが、昨季は開幕から“ノーコン全開”で5月初旬にはセットアッパーに格下げされた。マイナー落ちもあったが、他のリリーバーも背信投球が続き、6月半ばにはクローザーとして帰って来た。「四球か、三振」、いつも走者を背負う“綱渡り投球”だったそうだ。カブスはリリーバーの人材難にあり、従って、藤川はシーズン序盤で救援に失敗することがあったとしても、マイナー落ちする心配もないだろう。
しかし、不安要素も2つある。1つは藤川を視察した多くのメジャースカウトが口にしていたことだが、一昨年あたりから、ストレートの威力が落ちてきた。フォークボールのキレは健在だが、ストレートが走らなければ、落ちるボールの効果は半減する。「ストレートのキレがどこまで戻っているか」がポイントとなりそうだが、カブスの本拠地『リグレー・フィールド』も、藤川を悩ませるかもしれない。同球場は6月以降ペナントレース終了まで“ホームラン風”が吹くことでも知られている。日本時代は外野フライに仕留めていたものが風に流されてスタンドへ…。そんな不運もあるかもしれない。
現地時間3月9日、藤川はインディアンズ戦に登板し、3者凡退に抑えた(奪三振2)。興味深かったのは、2人目の左打者と対戦したときだった。藤川がウィニングショットに選んだのは、膝元への『縦の変化球』。フォークボールではなかった。試合後、日本人メディアにその『縦の変化球』がカットボールだったことを明かしており、昨季のダルビッシュ有の配球を参考にしたという。
こうした『頭脳派投球』も織り交ぜていけば、クローザーのポジションを確実に奪えるはずだ。
※メジャーリーガーのカタカナ表記は『週刊ベースボール増刊 Major LEAGUE /12年3/20号』(ベースボールマガジン社)を参考にいたしました。