『THE SHOOT MUST GO ON 写真家 鋤田正義 自らを語る』
(鋤田正義/K&Bパブリッシャーズ 2310円)
ロック・ミュージシャンに対してファンが求めるものは決して一つではない。当然のことながら、音楽自体のクオリティーが高くなければ、そのミュージシャンを好きになることはないのだけれど、ビジュアル面での魅力を求めたりもする。おそらく、偉大な表現者の頭の中で渦巻いている思想や感情も含めて、存在そのものから刺激を受けたくなるのだろう。だからこそ、ロック・ミュージシャンの姿をきっちりと捉える写真家の仕事はとてつもなく重要だと言えるのだ。
本書はデヴィッド・ボウイ、マーク・ボラン、YMOなど、さまざまなミュージシャンの存在感を引き出してきた写真家の、語り下ろしの自叙伝である。昭和13年=1938年生まれの人だ。子供のころ、どういう写真や映画から影響を受けたのか、青年になってからはどんな学校に通ったのか、そして大人になって以降、どういうモチベーションを持って海外に行き、ミュージシャンのベスト・ショットを撮ることができたのか、丁寧に誠実に語っている。その語りは単なる個人の回想録に終わってはいなくて、1950年代から現在までの日本の文化史をたどる厚みのある内容になっている。確かに私たちは、かつて英米のロック・ミュージックから影響を受けて日本独自の文化を作ってきた。そのまぎれもない事実を、本書はあらためて明らかにしてくれるのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『プロ野球 戦力外通告の衝撃と決断』(美山和也/宝島SUGOI文庫・680円)
突然の戦力外通告。人生の転機、分岐点に直面した男たちはどのような心境で過ごし、どのような意志を持って次の人生に踏み出していったのか。木田優夫、大道典良、野口茂樹…など、7人の選手たちが語る“衝撃と決断”がここに!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
年4回発行のクワガタとカブトムシ専門情報誌を発見した。これからの季節、童心にかえるにはうってつけだろう。その名も『BE-KUWA』(むし社/1380円)だ。
今月9日発売の最新号が第48号というから、すでに12年の歴史を持っている。こんな雑誌があるとは、正直知らなかった。
内容はオオクワガタの世界分布研究に始まり、クワガタ採集が楽しめる長野県・白馬村、岡山県瀬戸内市の宿の紹介、さらにギネスブックに掲載されるほど巨大な個体を育成した“ギネスブリーダー”たちの座談会など、バラエティーに富んでいる。
専門的な内容かというと、そうでもない。取材を受ける人々が幼少時の体験やクワガタの魅力について熱く語る記事、採集・飼育法などが中心だ。
「図鑑以上のクオリティー」と評される昆虫たちの生き生きとした写真が、雑誌の魅力をさらに際立たせている。実に楽しい雑誌だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意