「高額での売買が期待される産駒を毎年生産することができるし、場合によっては、その株を高値で他人に売ることもできる。さらに会員以外がその種牡馬を種付けすること(=「余勢(よせい)」と呼ぶ)によって派生した利益も、株の所有者たちに分配される。ただし、当然その種牡馬に掛かる費用も株数に応じて負担しなければならないし、シンジケート会員となった種牡馬が早逝したり、まったく産駒が走らずに株が暴落したりといったリスクもある。それでも種牡馬関連の損得勘定はプラスとなることが多い」
だからこそ、数億、数十億の大金が動く“種牡馬ビジネス”も成立するわけだ。
ちなみにオルフェーヴルは、現代では少数派ともいえるシンジケートが組まれていない種牡馬となっている。オルフェーヴルは社台コーポレーション追分ファームで生産され、(有)サンデーレーシングの所有馬として競走馬時代を過ごした。生産者、馬主ともに“日本競馬界のガリバー”と称される社台ファームグループの一員だ。そして、種牡馬として供用されるのも、やはり社台ファームグループに属し、ノーザンテースト、サンデーサイレンス、現役のキングカメハメハ、前述のディープインパクトなど、歴代のリーディングサイアーたちが繋養されている日本最高のスタリオン(種牡馬専門の牧場)、社台スタリオンステーションである。
そんな経歴もあり、種牡馬オルフェーヴルは、社台ファームグループが単独で所有する形となった。
「シンジケートがない分、オルフェーヴルは地力で種付けする繁殖牝馬を確保しなければならなかったのだが、圧倒的な勝ちっぷりを示した有馬記念の翌日には、予定されていた種付け頭数が瞬く間に予約で満杯となったそうだ」(同・関係者)
オルフェーヴルと種付けする予定となっている繁殖牝馬には、社台ファームグループが誇る優秀な牝馬も含まれているが、他の生産牧場からの種付け申し込みも相当な数に達したという。いまだ一頭も産駒が誕生していない上に、現役では単独4位となる高額種付け料が設定されているオルフェーヴルを交配相手に選ぶことは、生産牧場にとって決してリスクが低いわけではないが、生産地における種牡馬オルフェーヴル人気は早くも大盛況なのだ。
その理由としては、オルフェーヴルの種牡馬としての能力を高く買っている生産者が、とても多いということが挙げられる。
ある競馬関係者は、「名馬が数多く登場してきた近年の日本競馬界においても、ディープインパクトとオルフェーヴルの競走能力は、間違いなく傑出している」と語っていた。
ディープインパクトが種牡馬として、これだけの大成功を収めているのだから、能力的に引けを取らないオルフェーヴルにも同等の成果が期待できると考える生産者は多いようだ。未来の大種牡馬への先行投資的な意味合いも込めて、自身の牧場にいる最高級の繁殖牝馬を付けるのは、最強馬を作りたいと強く願う生産者にとって、非常にまっとうな方法論でもある。