「田中があと1年早く生まれていたとしても、今永昇太(DeNA)、高山俊(阪神)、高橋純平(ソフトバンク)のいた去年のドラフトで一番多くの1位指名があったでしょう。10年に1人の逸材です」(在京球団スカウト)
秋季リーグ初戦、30人強のスカウトがネット裏を占拠した。日米スカウトの注目を集める田中だが、大学で開花した遅咲きの投手だ。
「ゆっくりと大きな投球フォームで、左足が着地してからさらにもう一歩前に来るような感じ。上半身をすぐに起こす欠点こそあれ、下半身に粘りがあって、『ボールをリリースするコンマ5秒前が好きだ』と話すスカウトもいました。俗に言う『球持ちのいい投手』で、フォークボールの落差も素晴らしい」(スポーツライター・美山和也氏)
今年の春は右肩痛で不本意な成績に終わっていた田中。30人のスカウトを前に復活マウンドとなったが、8回を被安打1、1失点と貫禄の内容だった。あえてケチをつけるとしたら、高校時代もケガに泣かされていること。さらに一級品の投手でありながら視力は左右とも0.1以下。「プロのナイトゲームでは苦労しそう」との懸念も聞かれた。
「田中は『野球あっての自分』という考えで、練習もマジメ。大学で伸びる投手は1人でも練習できること。その反面、夢中になり過ぎて独り相撲をとる場面もある」(アマチュア担当記者)
巨人、日本ハム、DeNA、ヤクルト、阪神、楽天、西武などは「競合覚悟」を表明。直前で覆すかもしれないが、現時点で田中の競合回避があるとしたら、中日とソフトバンクだろう。
「落合GMが熱心に視察してきたのは、明大の右腕・柳裕也。常に7割程度の力で投げ、多彩な変化球を駆使する大人の投手です。落合GMの影響力が中日に残っているとしたら、柳の単独一本釣りでしょう。ソフトバンクは戦力層が厚いので高校生投手の可能性が高い。高校屈指のサウスポー寺島成輝(履正社)、高橋昴也(花咲徳栄)か、甲子園の優勝投手・今井達也(作新学院)、あるいは藤平尚真(横浜)らが有力です」(前出・在京スカウト)
競合覚悟を決めた各球団は「外れ1位」の絞り込みにも追われている。東京ガスの右腕・山岡泰輔もいいが、意外な指名があるとしたら独立リーグ、兵庫ブルーサンダーズの山川和大。硬式野球部のない芦屋大学在籍で、学生のまま独立リーグに参加。2年時にオリックス二軍相手に好投した。
とはいえ、田中の投じる最速156キロのストレートは群を抜く。入札重複を嫌う球団も、捨てがたいと今も選択に迷っている。「ダメモトで当然」と覚悟を決めたら、全球団入札の歴史的瞬間が見られるかもしれない。