2月17日、お隣の中国大連市にある紅沿河原発が発電を開始した。市の中心部から百数十キロの郊外にあるため、反対する声が多い中での稼働だ。そんな中で、“当事国”日本の動きが妙に慌ただしい。経済産業省の専門委員会が電力システム改革の報告書をまとめ、電気事業法改正案を国会に提出。その骨子は改革を段階的に進めることだが、最大の目玉は電力会社の発電部門と送電部門を2018〜'20年に分離することだ。
「電力10社で構成する電気事業連合会は、発送電分離の形態や時期を明示することに猛反対した揚げ句、改正法案の本則ではなく、本則を補う付則に盛り込ませた。要するに政治力を持つ“原子力村”にかかれば、法案の骨抜きなど朝飯前なのです」(東京電力ウオッチャー)
それだけではない。安倍普三首相が唱える経済政策、いわゆる『アベノミクス』への期待から株高・円安が進み、政権支持率も高まっているドサクサで、関西電力など4社が電気料金の大幅値上げを申請中だ。円安で火力発電の燃料負担がズッシリ重くなったことを理由にするが、その真意は、「コストの安い原発の再稼働を認めてほしい」とのアピールに他ならない。
「東電が国会事故調に対し、ウソを並べて福島原発の調査を拒否したことが大問題になった。津波ではなく、地震で本体が壊れたとなれば、耐震設計の抜本的な対応を迫られるためです。それよりは、ヘリクツを並べて検査をすり抜ければ、他の原発再稼働の障害にならないとの読みがある。ユーザーを人質に取った関電などの値上げ申請もそうですが、電力マンはアベノミクスをどう逆手に取れば自分達に有利になるかしか考えていませんよ」(東電OB)
確かに安倍政権の誕生を機に、原発をめぐる潮目は一変した。民主党政権が掲げた「2030年代に原発稼働ゼロ社会を目指す」という政策を「ゼロベースで見直す」と表明し、原発推進派を大いに喜ばせた。
その延長には何があるのか−−。
前出の東電OBは「国策としての原発輸出に大義名分が立つ。前政権のように国内が脱原発の一方、原発輸出の奨励では筋が通らない。その点、国内で原発再稼働ならば矛盾しない」と明快だ。
日本では依然として根強い原発アレルギーとは対照的に、アジア各国では原発の建設ラッシュを迎えている。経済協力開発機構(OECD)によると、原発の発電量は2035年に世界で30兆kW時を超え、'08年に比べて8割増える。その大半は、今後の経済発展が見込めるアジアの新興国に集中している。
現時点で建設・計画中の原発は、中国の56基を筆頭に、韓国19基、インド18基、ベトナム14基、インドネシア4基と続く。これだけで111基に達する上、ASEAN諸国でも複数のプロジェクトが浮上するなど、まさに“建設ラッシュ”の言葉がピッタリだ。