『絶唱』 湊かなえ 新潮社 1400円(本体価格)
男性読者に女性の強さ、たくましさを知らしめてくれる短篇集だ。収録の4篇は全て南太平洋に浮かぶ島国トンガを訪れた日本人女性の物語である。ただし、各々は独立した作品として読めるのだけれど、ある話で脇役だった人物が他の話では主人公になったりして、連続性がある。連作形式の長篇と言ってもいいだろう。なので、一冊全てを読まなければ本書の面白さはわからない。
女性たち皆が悩みを抱えてトンガにやって来る。ある者は苦い恋愛体験、ある者はシングルマザーのつらさに対して心の整理をつけたくて、異国の風景に浸ろうとする。これだけなら単なるリゾート小説になってしまうのだが、作者は彼女たちの苦悩に阪神・淡路大震災を絡めており、読んでいると一個人の苦悩が実に普遍的なものに感じられてくる。
傾向としてではあるが、多くの男は苦悩を忘れるため仕事に没頭しがちだ。一方、女は心の解放へ向かう。自身の悩みを重大な事件として捉え、じっくりと見つめ、ここではないどこかの場所で気持ちを洗い直そうとする。本書を読むと、そう感じる。
女性は子供を産めるが、男性は産むことができない。決定的な違いだ。それが女性特有の生命力の強さにつながっているように思う。もちろん、出産、子育てをしないで生涯を終える女性はいるけれど、それは人生の選択によるものであって、あらかじめ産める存在として誕生していることは間違いない。本書に出てくる女性たちが異国の自然の風景と一体化し、かつては重大事として捉えていた苦悩を過去のものとして洗い流すことができるのは、生命を生み出す存在である動物としての自分を自覚しているからだ。地球上の全ての動物、植物と仲間であると実感できるのだ。心の解放の仕方を見つけられない男性たちにぜひ読んでほしい。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
「英雄色を好む」ということわざがある。歴史に名を残したヒーローは精力旺盛、女好きでセックスも強いという意味だ。
海外ではエジプトの女王・クレオパトラをはじめ、数え切れないほどの女性と浮名を流した初代ローマの英雄・カエサルが例として引き合いに出される。日本でも“お手つき”が100人以上いたといわれる豊臣秀吉が、いい例だろう。
徳川家康も同類だ。66歳で16人目の子供を作り、平均寿命が30代だった戦国時代にあって、75歳の長寿を全うした。
では、家康が還暦を過ぎてもなお現役でいられた壮健法とは、一体どんなものだったのか−−。それをひもといたムックが『徳川家康に学ぶ健康法』(メディアソフト/1000円+税)だ。
大河ドラマでは、自ら薬を調合する家康の姿が描かれるが、健康オタクだった彼は海狗腎(かいくじん)という生薬を精力剤として服用していたという。
海狗腎はオットセイの陰茎及び睾丸を乾燥させたもので、現代でも漢方薬材料として珍重されている。家康の時代に、どのようなルートで入手したかは不明だが、ともあれこうした精力剤が功を奏し、50歳を過ぎて8人の子宝に恵まれたというから驚く。
この他、「季節外れの食材は食べない」「美味は避け普段は粗食」など、バランスの良い食生活は、現在でも精力アップ・マニュアルに通じるコンテンツだ。
英雄の温故知新を、長寿社会の性生活に生かしてみては?
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)