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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 東電値上げ幅の圧縮

 経済産業省の電気料金審査専門委員会は、7月5日に東電から出されていた家庭用電気料金の引き上げ申請の査定方針を決定した。
 火力発電用のLNG調達価格見直しや東電の事業報酬などのコストを見直すことで、500億円程度原価を圧縮し、電気料金の値上げ幅を申請の10.28%から9%台前半に圧縮する方針だ。また、すでに4月から16.7%の値上げが実施されている企業向け電気料金も、コスト圧縮に伴い15%台に圧縮される方向となった。

 政府は、数字を精査して、月内にも値上げを認可する方針だが、値上げ率に関しては、まだ一波乱ありそうだ。東電の人件費をどこまで削減するかの決着がついていないからだ。
 専門委員会は、社員の年収を大企業平均の水準に合わせる形で、2割カットするとした東電の申請内容を妥当と判断したが、消費者庁は3割の削減を求めている。3割カットは、2003年に公的資金を注入して救済した、りそなホールディングスの事例を踏まえたものだという。
 しかし、私はりそなという名前に大きな違和感を持った。なぜなら、りそなへの公的資金注入は'03年だ。民主党には、政権交代後の'10年に日本航空への公的資金注入という経験がある。しかも民営化された国策企業という面でも、りそなよりも日本航空の方が、東電に近いのだ。いったいなぜ、日本航空を参考にしなかったのか。

 一つの理由は、日本航空の方がはるかに厳しいリストラ策を採ったということだろう。日本航空は、パイロットの年収を30%カット、客室乗務員は25%カット、地上職も20%カットを行っただけでなく、従業員の3割に当たる1万6000人を削減した。それだけではない。日本航空の企業年金は現役で5割、OBで3割カットという、企業年金史上最大の削減を行っているのだ。
 これに対して東電は、'13年度末までに4万人の社員を3600人減らす予定にしているだけだ。また、企業年金についても、東電が保証する運用の利率を現行の6.5%〜3.5%から原則一律2.25%に引き下げるというものだ。これでは、いままでの異常な高利回りが普通になるだけだし、明らかにされていない年金の平均削減率もおそらく2割程度だろう。

 ただ、もっと大きな問題は、株主や債権者の扱いだ。東京電力は、賠償費用を考えれば、事実上債務超過の状態にある。日本航空も、債務超過であるとして、破綻処理を行った。その結果、銀行は3500億円の債権放棄をさせられ、株主は株券が紙くずになってしまった。
 ところが、東電の場合は、融資していた銀行も株主も一切責任を取っていないのだ。原発事故当時、東京電力は8兆円もの有利子負債を抱えていたし、自己資本も2兆円以上あった。日本航空と同様に経営破綻させて、これらを吹き飛ばしてしまえば、10兆円もの再建への原資を手に入れることができたはずだ。
 なぜそれをしなかったのか。日本航空の場合、株式の多くは、38万人におよぶ個人株主だった。一方、東京電力の大株主は、主要金融機関と外資だった。個人に負担はかけられても、大資本と外資に負担はかけられない。それが、政府の本音だったとすれば、もう一度日本航空のやり方で、料金値上げを見直すべきではないだろうか。

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