中国は、日本の最大の輸出相手で、輸出全体に占める割合は20%にも及ぶ。かつてドイツ車ばかりだった中国の自動車販売市場も、最近日本車が急速にプレゼンスを高めるなど、日本製品の浸透が高まってきただけに、日本の産業界にとって中国経済の失速は大きな痛手だ。しかも債務危機で欧州市場が厳しいのだからダブルパンチだ。
しかし、問題はそれだけではない。どうやら中国の経済成長率の低下は、構造的なもののようなのだ。それは数字にもはっきり表れている。長い目で見ると、中国は'03年から'07年まで二桁成長を続けた。しかし、'07年の14%成長をピークに、どんどん成長率を落としてきているのだ。
成長率低下の最大の要因は、中国の経済成長を支えてきた巨大な公共事業の行き詰まりだ。たとえば、上海の地下鉄の総延長は、すでに東京の地下鉄を超えている。投資効率のよい公共事業は、すでに整備が終わって、今後の投資は、採算が難しいものが増えていく。日本がたどった道とまったく同じだ。
そうした中で中国政府は、他にもさまざまな困難に直面していかざるを得ない。一番大きな問題は、経済格差だ。中国の所得格差は、日本とは比べものにならないくらい大きい。だから、中国全土で暴動が起きてきた。しかし、それが政権を揺るがすほどにならなかった理由は、低所得層も毎年所得を増やしていったからだ。下流に追いやられていても、毎年確実によくなる実感があれば、不満は爆発しない。しかし、成長が止まれば話は別だ。
これまでの先進国の歴史を振り返ると、高成長の時期には格差が縮小し、低成長になると格差が拡大する。金持ちは、常に自分の取り分を拡大しようとするから、全体のパイが伸びなくなると庶民への支払いを減らして、自分の所得を拡大しようとする。だから、成長率が一定以下になると庶民の所得が減少する。
私は同じことが中国でも起きると思う。そうなると、中国の社会は非常に不安定になる。それを防ぐ唯一の方法は、急速な公共事業拡大をやめて、強力な所得再分配政策を採って、分厚い中流層を確立することだろう。そうすれば、国内消費を主体とした経済運営が可能になるからだ。
しかし、所得再分配の強化は、これまで大きな所得を得てきた人々の利権を失わせるので、実現は容易ではない。また、開発経済学には、「開発独裁」という言葉がある。急速な経済発展をする途上国では、ある程度独裁的な経済社会運営が必要になるという言葉だ。裏を返せば、低成長になったら、民主化を図らないといけないことになる。しかし、それはいまの中国政府にとって受け入れがたい選択だろう。
さらに、一人っ子政策の採用から23年が経過して、今後中国は日本と同じようなペースで高齢化が進んでいく。政府はそのための財源確保もしていかなければならない。
今後、ほぼ確実に起きる変化は、中国政府が不機嫌になっていくということだ。その不機嫌な隣国といかに付き合っていくのか。相当綿密な外交戦略を立てないと、不測の事態が起こりかねないのだ。