その小池知事は6月20日に都庁で会見し、築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)移転問題について、築地と豊洲「共存案」を提示した。豊洲に市場を移転した後、5年後をメドに築地を、市場機能を持つ場として再開発すると…。
「共存案は、豊洲派からも築地派からも“いいとこ取り”との批判が続出している。一番の問題点は、豊洲に約6000億円もの事業費を投じながら、築地を再開発する財源をどこから持ってくるのかということ。税金を使うのか、工期も不透明。知事は『ベストなワイズスペンディングでいきたい』と話しているが、説明不足は否めない」(テレビ局都政担当者)
知事が示した「築地は守る、豊洲を生かす」をざっと説明していこう。豊洲は各機能を強化して「総合物流拠点」とし、築地は「5年をメドに食のテーマパーク機能を持つ一大拠点に再開発する」というもの。とりわけ、築地はブランド力を生かした「食のテーマパーク」化を鮮明にし、外食施設を含むショッピングモールなどの商業施設と、4万人収容規模のスタジアムを造る構想だという。
「当初、都は築地跡地をホテル、オフィス、住宅建設を目的とする事業者に売却し、売却益を豊洲の事業費に充てようとしていました。しかし、小池知事は“レンタル”の方針にスパッと切り替えた。更地で貸そうが、建物を作って貸そうが、年間200億円以上の賃料がとれるという試算が出たからです。築地は、東京、新橋、日本橋、銀座駅から近く、集客力は抜群です。さらに、2020年の東京五輪までに環状2号線を開通させる。こんな都心の一等地はここが最後。“引く手あまた”を見越しての判断です」(元東京都幹部職員)
さっそく動き出したのが、読売新聞グループだ。巨人の本拠地・東京ドームは来年で築30年を迎える。老朽化が進んでいるのに加え、年間使用料が30億円と馬鹿にならない。そのため、3年後に迫る東京五輪・パラリンピック後の新国立競技場を業務委託の形で借り受けて、新たに本拠地とする案を模索していたのだが、今回の小池構想で方向転換したという。
「読売新聞グループは巨人のほか、傘下に東京ヴェルディ1969(男子サッカー)と日テレ・ペレーザ(女子サッカー)を実質的に抱えているため、年間を通じてスタジアムを使えるメリットがあります。試合の合間にコンサートライブや展示会を入れれば、十分採算が取れると踏んだのでしょう。もともと朝日新聞本社の目と鼻の先にある築地市場は、読売が早くから触手を伸ばし、本社建設の動きまであった地区です。結局、大手町の旧本社跡に新社屋を建設しましたが、築地に巨人のスタジアムを作れば、朝日に対して牽制になるという思惑もあるのです」(日本テレビ幹部)
これに、冗談じゃない、と朝日新聞も“築地防衛”に乗り出した。こちらのカードは、Jリーグ・FC東京の本拠地スタジアム建設と、サッカー日本代表のメーンスタジアム誘致が狙いだ。
実は、FC東京の前身は、東京ガスフットボールクラブ。主要株主は東京ガスで、豊洲問題とは縁浅からぬ関係にある。朝日側はその東京ガスと連合して、FC東京をビッグクラブに育てる構想だという。
「そもそも論でいえば、豊洲は東京ガスの所有地でした。小池知事が豊洲市場移転を断念した場合、東京ガスはこれを買い戻し、ここに自前のスタジアムを造ってFC東京の本拠地を移す計画がありました。東京都に恩を売る形でカジノや大型商業施設も作り、統合型リゾート(IR)に転用する計画です。それが、今回の共存案で事実上消滅し、築地再開発に転換するという構図となった。サッカーに関して、力を入れているのが朝日新聞。読売の築地進出を阻止するため、都と連合を組むのです」(スポーツ紙デスク)
都議選真っ最中の小池知事は「築地スタジアム」を餌に、読売新聞と朝日新聞を競わせ、「自民と都民ファースト、どちらを応援するの?」と揺さぶりをかけているともとれる。
同時に、東京五輪のメーンスタジアム建設に伴い、本拠地喪失の目に遭っているのが、神宮球場を失うヤクルトだ。都内外に一時疎開した後、2022年度末に新神宮球場が完成するまで、先行きが不透明。
そこで囁かれているのが、一時移転先が東京ドームで、その後は築地の読売スタジアムに移るというプランだ。つまり、“巨人・ヤクルト相乗り構想”…。
ヤクルトの前身である産経新聞は安倍政権支持で連合しており、築地にカジノを誘致するIR計画でも読売と連携している。小池氏の支援があれば十分に可能だ。一方のFC東京には、東京新聞が応援している。
たかが築地の跡地問題と見てはいけない。都議選に乗じたスタジアム建設を餌に、大手新聞を手玉に取る小池氏はかなりの手練だ。