マジック1で敵地・東京ドームに乗り込んだ時点でのチーム打率は12球団トップの2割7分6厘。総安打数1237、同本塁打数141も12球団でもっとも多い。興味深いのは、総三塁打の数。こちらも12球団トップの33で、機動力の広島野球を再認識させられた。
「今年の広島打線は2ストライク後からが粘り強いんです。足を上げてフルスイングしていたバッターが2ストライク後は、摺り足打法に変えてきます。より確実にミートするためで、右打者の右方向へのヒット数も増えました。打線全体に『つなぐ』という意識が浸透していました」(在京球団スコアラー)
今季の広島は『打撃コーチ3人制』。打線好調の理由は、単にコーチの人数が増えたからではない。打撃陣の「つなぐ」意識改革に取り組んだ石井琢朗コーチ(46)の功績によるものだ。
「緒方監督はもちろん、選手、フロントからの信頼感も厚い。将来の広島監督候補はメジャー経験のある黒田であり、他球団に属したことのある新井や前田智徳氏(45)などが挙げられます。ですが、こうした生え抜きの面々を選ぶ前に、石井コーチを挟む可能性も出てきました。石井コーチを外様と位置づける人は1人もいません」(球界関係者)
影の功労者・石井コーチが『ポスト緒方』に急浮上してきたのだ。
同コーチは'08年オフ、旧横浜から戦力外通告を受け、広島に拾われた。「まだ出来る」という思いと古巣への雪辱を胸に、'12年シーズンまで現役を続けた。引退と当時にコーチ業に専念したが、特筆すべきは現役最後のシーズン。“外様”でありながら、兼任コーチを託されているのだ。
「広島での現役4年間は単身赴任でした。でも、コーチ就任と同時に家族を広島に呼び寄せています。こちらに骨を埋める覚悟を固めた証しでしょう」(前出・同)
守備走塁部門からスタートした。そして、緒方監督の誕生と同時に、“指揮官の分身”でなければ務まらない三塁コーチ役を任された。打撃担当となったのは昨秋キャンプからだが、異例の3人制は緒方監督のたってのお願いだったという。
「3人制となり、コーチが選手を個人指導する時間も増えました。ティー打撃ではボールに500円玉ほどの大きさの文字を書き、それを音読させながらやっていました。ボールをしっかり見極める意識改革の第一歩でした」(スポーツ紙記者)
また、石井コーチには別の任務も託されていたようだ。二軍コーチ補佐を兼務していた東出輝裕(36)が正式に引退し、打撃コーチとなった。東出はその次の世代の監督候補である。これも緒方監督の石井コーチへの信頼によるものだろう。
「石井の現役引退により、テスト生入団選手が消滅しました。ドン底から這い上がってきた根性は広島選手の気質にも合う」(同)
“広島のオトコ”となった石井コーチが緒方路線を継承する。