「ネット解禁には『生活が脅かされる』として薬剤師会が危機感を募らせている。そこで長年にわたって自民党を支持してきた薬剤師連盟が政治力を発揮しようとしているのですが、今度の参院選に独自候補を擁立できていないように組織の弱体化が進んでいる。そこで安倍首相がネット活用の美名の下、時代を先取りする改革派をアピールすべく、薬剤師会をテイよく見殺しにしたのです」
とはいえ、薬のネット販売を解禁したからといって国民が薬に殺到し、これがアベノミクスを後押しするとの保証はない。それどころか、閣議決定と同時に株価が急落したのは「市場が安倍首相の冷めた魂胆を見抜いていたからだ」と前出の市場関係者は指摘する。
「厚労省に法廷バトルを挑んだケンコーコムは、インターネット王国を目指す楽天の別働隊に他なりません。実際、三木谷社長はケンコーコムを援護射撃すべくネット上で大々的に署名集めを行ってきた。それだけじゃない。ケンコーコムは去年、楽天に第三者割当増資を行ったことで、楽天が51.3%を保有する子会社に組み込んでいる。安倍首相がツーカーの仲を自負する三木谷社長を援護すべく策を弄したのが真相です」
繰り返せば、この“美談”がスンナリ通るとは限らない。第一、外堀を埋められた薬剤師会が、そう簡単に野垂れ死にを決め込むわけがない。まして自民党も決して一枚岩ではなく「かつての郵政民営化と同様、ネット販売の是非を巡って党内が二分されている」(関係者)のが実情。今後進む安全性確保に向けた詳細なルール作りの過程で、推進派と慎重派の壮絶な攻防戦が予想される。その際、安倍首相と三木谷社長の怪しい二人三脚が論議の対象になる可能性は十分ある。
「三木谷社長がネット解禁の旗振り役を務める最大の理由は、自分のビジネスへの見返りが大きいからです。目立ちたがり屋の彼が産業競争力会議の民間メンバーとして存在感を発揮しているのも、そう解釈すると分かりやすい。商売と政治力を巧妙にリンクさせ、政商のイメージを彷彿とさせる点では、ソフトバンクの孫正義社長といい勝負です。口さがない兜町スズメは『政商の座を巡って新旧交代が実現したか』と囁いています」(経済記者)
ソフトバンクの孫社長は民主党政権に食い込み、これを利権に結びつけたとして『平成の政商』の異名をとった。その孫社長が昨年暮れの政権交代を機に永田町への影響力が低下したと陰口されているのとは対照的に、三木谷社長がすこぶる元気になり、新たな政商の座を確保したとアピールしている図式である。
皮肉にも安倍首相が“裁定”を下した当日、急落した日経平均株価とは対照的に、楽天とケンコーコムの株価は急騰した。両社にとっては格好の追い風だったことになる。これを踏まえて市場筋は「三木谷さんは笑いが止まらない。安倍首相にどう報いるか、それによって政商の座が決定的になるだろう」と冷ややかな視線を送っている。