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テコンドーの達人! 新鋭女優ジージャの蹴りに負けない壮絶人生

 「マッハ!」でアクション映画界に“ムエタイ・ムーブメント”を巻き起こした、タイのプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の新作「チョコレート・ファイター」が23日から新宿ピカデリーで公開される。激しいアクションで埋め尽くされた本作に体当たりで挑んだ、主演女優ジージャー(25)に“痛い”裏話を聞いた。

 2003年公開の「マッハ!」で、東洋のアクション映画といえば香港カンフー…という“常識”に楔(くさび)を打ち込んだピンゲーオ監督。05年「トム・ヤム・クン!」以来だが、地元タイでは「レッドクリフ1」の2倍以上の興収を記録したというから恐れ入る。

 そのピンゲーオ監督が主人公のゼン(禅)に抜てきしたのが彼女。本作でデビューする若干25歳の新進女優だが、与えられた役は想像を絶するもの。常人離れした反射神経と柔軟な身体運動能力の持ち主で、強烈なキックで頑強な男どもをなぎ倒していく。まず、素人には不可能や役回りだ。

 「一緒にテコンドーをやっていた友人と一緒にオーディションを受けました。当時は大学進学を控えていたので学費などを稼ぐのが目的で、女優になるためではありません。でも、いざ受けてみたら合格。ただ、その後は予想に反してというか、超えていたというか…」

 合格したといっても即、映画に出演できたわけではない。ピンゲーオ監督とアクション指導のパンナー・リットグライは演技より、むしろ格闘家の素質を買っていた。

 「それから4年間、この映画に向けてずーっとトレーニング(笑)。テコンドー以外にもムエタイ、体操、武器を使ったアクションなど勉強の毎日。私、オリンピックに出られるんじゃないかって思えるぐらい(笑)」

 オーディションを受ける前はテコンドーの師範で食べていたほどの腕前。ピンゲーオ監督が目を付けるのも当然と言えるだろう。

 「実は私、8カ月で生まれてきた早産児だったんです。生後しばらく保育器に入れられていたほどで、子供のころは年に4回も入院するぐらい病弱。心配した母が私を丈夫にするため、11歳のときテコンドーを習わされたんです。それに道場に習えば友達もできるということで。最初は友達5人で始めたんですが、中でも私が一番イヤがってました。でも、いざ行ってみたら意外に面白くて。今じゃ私以外、誰もテコンドーやってない(笑)」

 わずか2年、13歳で黒帯を締め、14歳で師範代として後進の指導にも当たることになった。

 「テコンドーの先生として最初は学費とおやつ代を稼いでました。その後、父が亡くなると、おやつ代は生活費に変わりました。そんなとき、リットグライ先生の知人からオーディションを受けるよう勧められて」

 戦いの舞台は製氷場や食肉処理場、ビル4階の手すりのないベランダなど、一歩間違えば大ケガしかねない場所ばかり。だが、彼女は一切スタントを使っていない。

 「さすがに途中へこたれそうになりました(笑)。特にベランダでのアクションシーンは本当に4階で撮影しました。実は私、高所恐怖症で(笑)。対戦相手の皆さんが下にポンポン落ちるけど、みんなよく生きているなぁーって本当に関心しました」

 さすがにぶっつけ本番で臨むのは無理。何度も入念にリハーサルを重ねた。どうりで準備期間に4年も要するわけだ。

 「ベランダのシーンは、1日目は慣れてないので地上を台本どおり歩くだけ。2日目は地上で殺陣の練習と、日を追って徐々に高い階へと移していきます。撮影開始から終わるまで全部で2〜3カ月ほどかかりました」

 激しいアクションの連続だけに無傷で済むわけもない。その様子は本編終了後にNGシーンとしてまとめられている。

 「いろいろ痛いNGシーンはあるんですが…。私、睡眠時間がなくて、ほとんど寝ないで撮影していたんです。体は起きているのに頭の中は寝ているような。そんなボンヤリとした状態のとき、相手のキックを受け損ねて左目を直撃! これが一番痛かったですね」

 本作にはゼンがブルース・リーやジャッキー・チェンらの映像を参考にアクションを学ぶシーンが出てくる。こうしたスターへのオマージュに、日本の中年男性はある種の郷愁を抱くだろう。

 「彼らのDVDを見ながら型を練習しました。70年代から21世紀にかけてのスターのマネをして、本作を見た人に彼らと同じだと判断してもらえる、その域まで近づけろ…それが監督から与えられた課題でした」

 日本のヤクザとタイ最大マフィアの抗争が激化する中、日本人のマサシとタイの女ジンの間に生まれた娘、それがゼン。マサシの帰国後、自閉症を患うゼンをジンはひとりで育てるが、末期の白血病に。母の治療費を工面するため、ゼンは焦げ付いた借金を回収すべく貸し付け先で大立ち回り…という物語だ。

 マサシ役を演じているのは、「マッハ!」以来のピンゲーオ監督ファンという阿部寛。

 「阿部さんはプロの俳優として、とても尊敬できる人でした。福岡でラストシーンを撮影した際、高級な着物を頂いて、とてもうれしかった。私も何か用意しておけばよかったな(笑)」

 “ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナン 1984年3月31日生まれ。タイ・バンコク出身。カセンバンディット大学美術学部卒。11歳でテコンドーを習い始め、14歳で2段を取得して師範代に。18歳で3段。高校3年生のときパンナー・リットグライ監督の映画「七人のマッハ!!!!!!!」のオーディションを受け、才能を見出される。

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