元巨人のエース・上原浩治(42)は米カブスからFAとなって以降、新天地を探していた。「メジャーからのオファーがなければ引退」と明言してきたが、「ウソツキと言われようが、やっぱり野球がしたい」と、考えを一変。そして、巨人帰還の正式発表を待つばかりとなった(3月5日時点)。
「巨人以外と契約する可能性? ヤクルト、阪神などが上原を獲ったら、自軍のメジャー帰還選手の存在意義がなくなります。ヤクルトには青木宣親がいて、阪神には藤川球児がいます。とっくにピークはすぎているのに彼らを帰還させた理由は、若手指導や引退後の指導者就任を見越してのこと。仮に青木と上原が一緒のチームになったら、一方の個性を殺してしまいます。中日が松坂大輔を獲ったのも、同じような理由からでした」(球界関係者)
だが、巨人は上原帰還を機に“本命獲得”にも乗り出す。ゴジラこと松井秀喜氏(43)の監督就任の布石にもされるというのだ。
上原の帰還にあたり、事は急展開で決まったような雰囲気だが、実際は違う。1月半ば、巨人は帰還の手応えを掴んでいた。
「年が明けてから第5の外国人投手、テーラー・ヤングマンの獲得を発表した。先発タイプで、しかも外国人投手を3人にすれば、うち1人は一軍登録できなくなる。巨人のフロントは、昨季29セーブを挙げたカミネロが使えなくなることを見越し、そこに上原をはめ込むつもりでいたんだ」(ベテラン記者)
故障明けの澤村拓一もアテにできず、計算の立つリリーバーはマシソンだけ。弱点を補強しないままキャンプインしたことで、他球団も「巨人は何か仕掛けてくる!?」と勘繰っていた。
「上原が国内で自主トレをしていた1月中、巨人は上原サイドに獲得の意思があることを伝えている。『メジャー優先』との返答がされたそうですが、巨人側は手応えを感じていた」(同)
また、上原の売り込みは米代理人に一括されていなかった。侍ジャパンの投手コーチで、高校時代の同級生でもある元日本ハム・建山義紀や、大学の後輩で同じ2010年に巨人を退団した現日ハム・村田透を介して、各方面の情報も集めていた。
ここで上原が聞かされたのは、今季43歳を迎える年齢のこと。自身が思っていた以上にネックにとらえられていたそうだ。
「海外FA権を行使し米球界に挑戦した上原は、巨人を円満に退団したわけではない。彼をよく思わない輩が今もいないわけではなく、そのへんも確かめておきたかったのだろう」(同)
新人時代の投手コーチだった鹿取義隆氏がゼネラルマネージャーに就いたのも大きい。コーチ・鹿取が退団した'02年、上原は「僕も連れて行って下さい」とメールを送っていた。その信頼する鹿取GMが“アンチ上原たち”を黙らせたことも、「メジャー一本」の上原の気持ちを変えたようだ。
「高橋由伸監督(42)との友情もありました」(前出・球界関係者)
また、石井一夫球団社長が各メディアにコメントを発している「春っぽい明るい話」(2日)も、関係者によれば、これらを意識して前向きに答えたわけだ。
球団トップが前向きなら、アンチ派はもう反論できない。この時点で古巣復帰は決定的となったが、その目的は手薄な救援陣の補強だけではない。ゴジラ松井だ。
「選手を補強するだけがチーム作りではない。上原が帰還すれば、ゴジラ松井の態度も軟化してくるはずですから」(同)
松井氏は今年、2季ぶりに宮崎キャンプを訪れ、臨時コーチを務めた。とはいえ、他人行儀な雰囲気があり、古巣との距離は縮まらないまま。恩師・長嶋茂雄氏が「生きているうちに、松井監督が見たい」と発言したとされ、当の松井氏も無関心を装ったままではいられなくなってきた。
「長嶋さんにここまで言わせたら、もう逃げられないでしょう。現在、ヤンキースで育成やスカウト部門の仕事もしていますが、巨人の監督を引き受けたとしても、ヤ軍との関係は切れません。ヤ軍のキャッシュマンGMは松井氏を信頼しており、むしろ、優良外国人選手を仲介してくれるのでは」(NPB関係者)
高橋由監督の任期は今季で終了する。優勝すれば続投だが、クライマックスシリーズに進出できてもアブナイとの見方が支配的だ。
「若手育成も課せられていますが、期待の岡本和真については『もうひと皮剥けてから実戦で』というのがヨシノブの考え。彼の偉いところは『自分は今年までだが、チームは続いていく』とし、自身の延命のために若手を酷使するような使い方をしないと決めていること」(ベテラン記者)
上原は意味深なコメントも発していた。「もう1年、やりたい!」。現役への未練もあるだろう。しかし、リリーバー・上原が連投してくれれば、その間に若手をワンランク上に押し上げるヨシノブ構想の力にもなれる。そして、松井氏にバトンタッチ――。
上原の帰還は、本命・ゴジラ松井の露払いでもあるようだ。