しかし、自他ともに「カビ博士」と認める千葉大学真菌医学研究センター、宮治誠教授は、自著『カビ博士奮闘記』(講談社刊)の中で、こう述べている。
「水虫ならまだマシな方で、ときには内臓や脳など、身体の奥深くにまでカビが入り込んで繁殖してしまうことすらあります」
要は体内がカビだらけの人がいるということ。加えて宮治教授は、こうも警鐘を鳴らしている。
「カビは命に関わる場合も少なくない。あまり知られていないのですが、このような体の中で繁殖するカビの病気は、日本の医療現場で今、非常に深刻な問題になっています」
カビが体内に侵入する経路は、口から気管、そして肺へというパターンだ。問題なのは、病原性が強い細菌も同じ経路をたどって侵入する点。そのため体力が落ちた病弱の人は、さしずめ細菌性の「肺炎」に侵されて、命取りになるケースもあるのだ。
過去に結核や気管支拡張症などにかかり、肺に空洞が出来ていると、そこにカビの胞子が入り込んで繁殖。患部は「菌球」と呼ばれる塊で、びっしりと埋め尽くされてしまう。
これを取り除くには、当然カビを殺さなければならないが、薬を投与しても成分が浸透しないため、重症化して最悪の結果を招く。
宮治教授は他にも、体の中(肺)に「クモの巣」ができることも紹介。こちらも、以前に白血病などの血液の病気にかかった患者の末期感染症として起こることが多いと指摘している。
肺の中に入り込んだ菌糸は、まるでクモの巣のように急速に広がるところから、この表現になったらしいが、短期間のうちに患者が亡くなることがあるという怖い病気だ。腎移植の患者にも、同じような現象が見られるというから怖い。
とは言っても、もともと人の体内には、白血球の一種が病原体を運ぶ胞子を処理するなどの“防御システム”がしっかりしている。人の側が健康でいる限りは、胞子を吸い込んでも過剰な心配は不要ともいえる。
さて、ここまで散々カビを悪者扱いにしてきたが、我々はさまざまな場面でカビの恩恵を受けていることも忘れてはならない。生活圏を見渡せば、アルコールの発酵に欠かせない酵母菌や、パンの製造にも欠かせないイースト菌もカビと無関係ではない。また、食卓に欠かせない「味噌」「醤油」「漬物」「納豆」もコウジカビなどの働きによって美味しく食べられる。
しかし有害なカビによって健康を阻害されているのも事実。カビに対する正しい知識と対策はしっかりしておくべきだ。
家庭内でカビが生えやすい場所は、風呂場・洗面所・トイレなどの水回り。換気が悪く、湿度が高くなりやすい下駄箱やクローゼットの中、さらには家具、家電の裏側などにも潜んでいる。気密性の高い近年の住宅は、外気との温度差が大きくなり、湿気の原因となる結露が発生しやすい。
「基本は、除湿に努め風通しのよい生活をすること。押し入れなどには新聞紙で手作りした除湿用のすだれを備え付ける。新聞紙は吸湿性に優れ、天日干しすれば何度でも使えます。盲点は天井。うっすらと茶色に見えてきたらカビが生えている証拠。薬液を浸した布で拭き取るなどして、カビの因を断ちましょう」(東京社会医学センター・村上剛氏)
梅雨も末、本格的な夏に向け、快適な環境を作ろう。