ただ、発作の時間は短いかもしれないが、発作が起こるたびに死ぬかもしれないという恐怖に陥ることが、この病気を患う人々を悩ます。
「また発作が起きるかもしれない」
そんな予期不安が、患者にとって最もつらいことなのだ。
しかし、パニック障害の本当の恐ろしさは、次の(1)〜(3)が繰り返されることで症状が進行し、(4)の段階へ進む危険があること。広場恐怖とは、発作の恐れから一人で外出できなくなってしまうことだ。
(1)発作が断続的に起こる
(2)予期不安から自身の行動が消極的になる
(3)予期不安が強いと発作が悪化する
(4)広場恐怖やうつ病に進展
例えば、最初の発作が電車やエレベーターの中で起きた場合、それ以後、乗ることが怖くなってしまうという。前述の長嶋さんは、渋滞が怖くなったり、高速道路で走行できなくなった。大場さんも、風呂場でシャンプーすることが怖くなってしまったそうだ。
治療は、投薬が中心になる。
「パニック障害の場合には、まず面談の中で患者さんに、発作では死なないことを理解してもらいます。投薬については、抗うつ剤(SSRIなど)と抗不安薬の2本立てでいくのが一般的です。抗うつ剤は継続的に飲み、抗不安薬は発作の時に飲んでもらいます。薬によって、発作の発生と予期不安の増大という悪循環を断ち切ることが重要になります」(関口院長)
広場恐怖の症状がある場合には、行動療法が併用される。例えば、電車に乗る事が怖い場合は、乗車距離を一駅ずつ延ばすなど、段階的に自分自身を不安にさらして、それに慣れていく方法をとる。
抗うつ剤がパニック障害に用いられる理由は、病気の捉え方の違いによる。以前は、パニック障害は心の病だと考えられていたが、現在では、脳内にあるセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の乱れが原因であるという仮説が支配的になっている。
つまり、セロトニンが不足すると不安を抑えられなくなり、ノルアドレナリンが強まると不安が増大する。これが、パニック障害の患者が恐怖や不安を感じる原因ではないか、というわけだ。医師によっては、パニック障害はストレス過多の影響が大きいという人もいる。
確かに、長嶋一茂さんの場合は14年間、大場久美子さんの場合は約10年間という長い闘病生活を送った。それは、早期にパニック障害であると診断されず、回り道をしたことが大きいという。
一般的には、薬を飲めば発作が起こらないことや、発作が起きても薬を飲めば良いことなどが徐々にわかってくれば、パニック障害の治癒率は高いといわれている。
パニック障害になって、「もう社会生活が送れない」などと悲観的になることはないのだ。