「最近は若い人を中心にビール離れが著しい。そんな中、『RTD(レディー・トゥー・ドリンク)』と呼ばれる酎ハイ、カクテル、ハイボールなどの缶系アルコール飲料が人気。これがビール離れに拍車をかけています」(酒類メーカー関係者)
RTD市場は2015年から3年連続で10%以上の拡大を続けている。それに対しビール系飲料の国内総出荷量は、ビール大手5社が今年1月に発表した統計によると、3億9390万ケースで前年比2.5%減となり、14年連続で前年割れとなった。
「そのジリ貧のビール系飲料の中で、好調なのが“第三のビール”です。業界の救世主としてどのメーカーも力を入れています」(同)
なぜ第三のビールの売り上げが好調なのか。そもそも第三のビールとは、どういうお酒なのかを説明しよう。
「まず、原料に麦芽を使用しているのがビールと発泡酒で、それぞれの違いは麦芽量の比率です。麦芽50%以上がビール、50%未満が発泡酒です。それに対し第三のビールは、原料に麦芽以外の、大豆、トウモロコシなどの穀物を使用し、それにビールの風味をつけています」(大手ビールメーカー関係者)
第三のビールは酒税が安いため、ビールや発泡酒と比較して消費者に低価格で提供できるのが大きな利点だという。
「1缶350_で比較すると、ビールは一般的に205円前後です。発泡酒は152円、第三のビールは133円となります。小売価格で多少違いますが、大筋ではこうした価格設定です」(同)
安価な第三のビールは消費者に受け入れられた。しかし、2004年2月にサッポロビールから第三のビール第1号として『ドラフトワン』が発売されてから15年もたつ中で、改めて「第三のビール」が注目されるのはなぜなのか。
2018年3月にキリンビール(以下、キリン)から、第三のビール『本麒麟』が発売されたことが転機となったという。
もともと第三のビールは、ビールと比較すると味は評判がよくなかった。メーカーは当初から、価格的に「美味いものは無理」と半ばあきらめぎみ。この問題に敢然とチャレンジしたのがキリンだったのだ。
「キリンは『美味いビールテイストの第三のビールを作ることにチャレンジしよう』と全社を挙げて取り組みました。結果、力強いコクを実現する本麒麟が誕生したのです。しかもキリンは、社の象徴である麒麟を前面に出しつつ“真っ赤なパッケージ”に本麒麟を仕上げた。その味と社の意気込みに消費者や小売り関係も大いに触発され、ヒットにつながったのです」(飲食業界関係者)
当初、年間目標が510万ケース(1ケースは大瓶20本換算)だった本麒麟だが、蓋を開けてみれば940万ケースの大ヒットとなった。
2018年のビール系の国内総出荷量は前述の通りで、分野別ではビールが1億9391万ケースと前年比5.2%減、発泡酒が5015万ケースと同8.8%減。そんな中、第三のビールは1億4983万ケースの同3.7%増で唯一のプラス。
「中でもキリンは、ビール系全体で1億3532万ケースと5.3%も伸びました。特に第三のビールは36・9%と7.2ポイントも上がったのです」(同)
この大ヒットに大手ビールメーカーは、キリンに対抗する第三のビールを次々と投入しはじめた。
業界トップのアサヒビールは今年1月、大物女優の米倉涼子をCMに起用した第三のビール『極上〈キレ味〉』を新発売した。
「スピリッツを使用し、独自の高発酵技術でビールに近い味わいを再現しました。年間販売数は300万ケースというのが目標といっています。しかし、本音は本麒麟を越えることを狙っているでしょう」(同)
サントリービールは2月に『金麦〈ゴールド・ラガー〉』、サッポロビールも4月に『本格辛口』をぶつける。
「今年は第三のビールを制したビールメーカーが勝つ。というのも、消費税は食品などには軽減税率が適用されますが、ビールは対象外。2019年は増税により消費者の節約志向が一気に強まり、ビール系飲料では、安価な第三のビールに注目が集まるのは確実です」(ビールメーカー関係者)
ビール系飲料の税金は、ビール、発泡酒、第三のビールを含め、2026年には一律55円に一本化される見込みだ。
各メーカーは長期的にそこをにらみつつ販売戦略を立てなければならない。2019年は、第三のビールの市場を奪い合う壮絶な覇権争いを繰り広げることになりそうだ。