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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 成長戦略の本質

 5月17日、安倍総理が成長戦略の第二弾を発表した。前回の第一弾では、女性の活用など、誰からも文句のでない施策を並べただけだったが、今回、ついに成長戦略の本質が現れてきた。それは弱肉強食社会かつ既得権社会の構築だ。

 今回の目玉政策である農業からみていこう。安倍総理は、現在4500億円の農業輸出額を2020年までに1兆円に拡大するという。さらに作付けされていない農地を集約し生産性を高めることで、10年間で農業・農村の所得を倍増させるという目標を掲げている。
 単に農地を集約化、大規模化しただけで、日本が農産物輸出を倍増させられるとは考えられない。日本は国土の構造上、平地が少なく、アメリカやカナダなどのような大規模化は不可能だからだ。

 それでは何を考えているのか。ヒントは、農業・農村の所得倍増であって、農家の所得倍増ではないということだ。民主党政権のときは、農家の戸別所得補償政策が採られた。零細農家でも生活できる保護政策だ。
 ところが、安倍総理の成長戦略は違う。農地を集約して大規模化するが、そこで想定されている経営母体は、企業だ。大規模なハウスを建設し、水耕栽培で養分から室温、二酸化炭素濃度までを完璧にコントロールする。そうすれば収量が革命的に増えて、日本の農業が十分な競争力を持つことができるという考え方だ。
 それは不可能な話ではない。しかし、それで本当によいのだろうか。日本の農業は、里山と一体化した独特のシステムを作り上げてきた。里山の木を間伐して生まれた木材で炭を焼き、しいたけを栽培する。山の落ち葉は堆肥となる。そして田んぼに植えたレンゲソウは、ミツバチの格好の蜜源となり、花が終わると田んぼに鋤きこんで窒素肥料とする。農家が小規模ながら様々な作物を同時に作ることで、環境に優しい世界一安全な作物を生み出す農業を構築してきた。それを大量生産の農業ビジネスに転換しようというのだ。
 大資本を必要とする農業ビジネスに農家は基本的に対応できない。農家は、そこで働く労働者となるしかないのだ。だから農家は豊かにならないけれど、農業生産は拡大するのだ。

 成長戦略は、そうした資本主義化だけではない。個別企業が求める規制緩和策を特例で認める制度を創設するという。特定企業だけ規制を緩和するというのは、その企業に独占権を与えるということだ。独占の利益は大きい。いまから28年前、専売公社と電電公社が民営化された。誰もが、禁煙化の流れに身を置くJTよりも情報化の波に乗るNTTの未来が明るいと信じた。ところが、現在のJTの時価総額はNTTの時価総額を4500億円も上回っている。民営化後、激しい価格競争を繰り広げることになったNTTと製造独占を維持したJTの差がそこに表れている。
 問題は、独占の利益を獲得する特定企業がどのように選ばれるのかということだ。これも確定したことは言えないが、政府の覚えのめでたい企業ということになるだろう。つまり成長戦略は利権を握った企業に所得が集中する社会を作ろうとしているのだ。経済学は完全競争になると利益はゼロになると教えている。利益を得るのは、競争をしない会社なのだ。

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