イチローがピート・ローズのメジャー通算最多安打を日米通算で上回ったが、これに米球界から一斉にブーイングが巻き起こった。特に、当のピート・ローズがいちばん憤慨してみせた。
「俺を“ヒット・キング”ではなく、“ヒット・クイーン”におとしめようとしているやつらがいる」
そう日本のメディアに牙を剥いたかと思いきや、
「日本で55発放ったタフィー・ローズは米球界ではさっぱりだった。これが真実だ。“ハイスクール”の記録を加えてカウントするのはナンセンス」
と斬って捨てたのだ。大リーグだけで達成した自分の記録と、日米通算記録を同列に扱われては困るという主張だった。
「日本の報道と違い、米国では今回の記録に対して批判的な声が多い。ヒットは勝利を重ね、ワールドチャンピオンを勝ち取るための手段。優勝の狙えないようなチームで安打を重ねても意味がないし、イチローは四球が極めて少ないのも評価の低い理由の一つ。チームプレーを考えず、ただヒット数だけを稼いだエゴイストとピート・ローズを同列に考えるべきではないというのが著名コラムニストたちの論調です」(大リーグ担当のスポーツ紙記者)
米国民の大反発を招いたイチローの記録更新だが、実はこれが思わぬ収穫をもたらしている。これまで、「ベースボールの最高峰はMLB」を理由に、五輪や国際大会への大リーガー出場に否定的だったMLBが、選手出場に方向転換し始めたからだ。
「ほとんどの米国人は、イチローの名前は知っていても、彼の人間像までは知らなかった。それが今回の一件で、メジャー16年間の年俸総額が165億円に上り、それ以外にCM契約などで100億円超を稼ぎ出したと紹介された。日本時代は9年間で約21億円の収入だったのに、と。しかも、メジャーでの年俸の一部は引退後に年5.5%の利子をつけて受け取る契約をしていて、彼には現役引退後も毎年2億円近い金が振り込まれる。こう報じられたことで、大統領選でのトランプ氏支持派を中心にジャパンバッシングが起き『東京五輪で大リーガーの実力を見せつけてやるべきだ』との声が高まっている」(同)
その風をいち早く読んだのが、NPBの熊崎勝彦コミッショナー。6月9日にニューヨークでロブ・マンフレッドコミッショナーと会談し、東京五輪の追加種目に野球が選ばれた場合、大リーガーの参加をあらためて要請している。これまで出場を拒んでいた米球界側もイチローの記録更新報道で「MLBのステータスを保つために、東京五輪で日米の野球レベルの違いを見せつけるべきだ」の声が多数派になってきたという。
「公私混同疑惑」で舛添要一知事の辞職が決まったばかりの開催地・東京にとって、まさしくイチロー様様。