ワンダースピードを見つめながら感慨深げに話すのは、栗東中学の2つ上の先輩・田崎助手だ。
その何とも心に染み入る言葉は、皐月賞のわずか2分足らずで640万円もの大金を御破算にしてしまった傷心の記者に、新たなる闘争心を奮い立たせてくれた。
7歳馬らしくキャリアも32戦と豊富。「オレしかいないよね。定年解散した湯浅厩舎時代のデビュー戦からこの馬を知っているのは…」
“驚異のスピード”というネーミングに反し、本格化を迎えるまでは、まるで歩みののろい亀そのもの。山あり谷ありの道を行く過程でターニングポイントとなったのが一昨年3月の鳴門S(ダ1200メートル)だった。
「使うところがなくて距離が忙しいのを承知の上で出したレース。結果も9着だったが、あそこから馬が急激に変わった。前に行くスピードがついたし、怖がりな面もなくなった」
そして、直後の梅田Sをレコードで快勝してからはトントン拍子に出世街道を歩んでいった。昨年のアンタレスS、名古屋GP、平安Sの重賞3勝を含め、梅田S以降は<6314>の好成績。掲示板を外したのもGI・JCダート(07、08年)の2回だけだ。まさに、運命のイタズラとでもいうべきか、鳴門Sがいかに競走馬としての“分水嶺”となったかが分かる。
前走の名古屋大賞典は惜しくも2着。「小回りの名古屋とあって、小牧がテキに直前、『勝負乗りさせてください』と直訴し、早め早めの競馬をしたんだが、最後のあと一歩が届かなかった。でも、あれだけ長く脚を使えたのは収穫だった」
脚に合わない舞台での好走は陣営にさらなる自信をもたらした。今回、舞台となる京都は7戦5勝の巧者。「淀なら坂の下りでエンジンがかかるし、もう馬がギンギンで絶好調。勝てるよ」。頼もしき先輩のV宣言を信じて再出発を誓いたい。