前述した「もし自分がアイドルになれるとしたら、どのグループに入りたい?」アンケートでは、1位に乃木坂46、2位にももいろクローバーZ、3位にAKB48と、なるほど世間一般的な人気や知名度が反映された結果となった。一方の「アイドルランキング」になると、アンケート対象が「アイドル好き女子大生」というだけあって、もう少しコアな結果が表れて興味深い。
たとえば、第1回のテーマである「好きな顔」のランキングでは、1位に℃-uteの鈴木愛理が入る。渋谷のJKに聞いた「もし自分がアイドルになれるとしたら〜」では、℃-uteはトップ5にも入っていない。また、「SNS・ブログが面白い」というテーマでは、国民的な知名度を持つ指原莉乃をおさえ、元アンジュルムの福田花音が1位に輝いている。これも、広く一般を対象とした調査では得られなかった結果だろう。
これらの結果そのものも興味深いが、アイドルビジネス全体を考えたとき、なによりも注目すべきなのは「アンケート対象者」だ。
かつて、アイドルに関するアンケートといえば、「秋葉原にいるオタク系男子に聞きました」など、限定的な層を対象に行われるのがお決まりだった。実際、そうした層に訊かなければ、調査として成立しなかった。しかし最近では、渋谷を歩いている女子高生たちに声をかけても、アイドルたちの名前やグループ名がスラスラと出てくる。女子高生や女子大生を対象にアンケートを行って、調査がきちんと成立すること自体、以前なら考えられなかった状況だ。
とかく、「ブームは終わった」などと言われがちなアイドル界隈だが、ここまで一般的な関心事として浸透しているのならば、今さらブーム云々を論じるのは、意味がないことのように思える。同時に「アイドルおたく」も、一定の市民権を得たと考えてもいいだろう。
アイドル、または「アイドルファン」という趣味が一般化した表れのひとつには、「踊ってみた」「歌ってみた」も当然挙げられる。アイドルを「見る」だけでなく、自分もアイドルに「なってみる」。観戦中心だったスポーツ種目が、競技人口が増えて一気に一般化する様子にも似ている。見るだけでなく、自分もアイドルになりきり歌って踊り、多くの人に見てもらう。自撮り映像をネットにアップする「踊ってみた」から、さらに一歩進んだのが「ユニドル」だ。ユニドルとは「ユニバーシティ・アイドル」の略で、読んで字のごとく、「女子大生アイドル」のこと。メジャーなアイドルにも、大学に通いながら活動をする者は少なくないが、ユニドルの本業はあくまでも「女子大生」。披露するのも、アイドルのコピーダンスだ。言ってみれば、サークル活動や文化祭の出し物のようなノリだ。
とはいえ、全国の大学のダンスサークルや体育会で結成されたユニットが、日本一の座を争うコンテスト「UNIDOL」が年2回開催されるなど、彼女たちが活動に向かう姿勢は真剣そのもの。また、ユニドルを中心におたく活動をする者も現れ、ファンサイドも注目するムーブメントになってきている。
メジャーアイドルシーンから見てもユニドルの流行は無視できないらしく、ハロー!プロジェクトの若手グループ「こぶしファクトリー」では、今春に発売された2ndシングル『桜ナイトフィーバー』を全国のユニドルたちと踊る企画を行っている。多くのユニドルたちにとって、活動はサークルのようなもの。卒業後の進路として「アイドル」を目指しているわけではない。しかし、なかにはこれをステップにメジャーなアイドルになることを夢見つつ、ユニドル活動をしている者もいるようだ。
では、実際、アイドル業界ではユニドルをスカウトの対象として見ているのだろうか? インディーズ系ならともかく、メジャーアイドルに限って考えれば、極めて難しいように思える。
ひとつは年齢の問題。現役アイドルにも女子大生世代のメンバーは多いが、今からはじめる年齢としては遅いと言わざるをえない。そしてもうひとつは、「過去」の問題だ。アイドルにとって、異性との交際が当人だけでなくグループ全体にもマイナスとなるのは周知のことだが、それは現在進行形ではなく「元カレ」であっても同じこと。アイドルになろうとするぐらいのビジュアルを持つ女の子なら、過去にカレシのひとりやふたりぐらい、いないほうがおかしい。
メジャー系アイドルグループが「研究生」「研修生」などの育成組織を運営するのは、パフォーマンス面だけでなく、「過去のないきれいなアイドル」を育てるという狙いもあるはずだ。
1980年代から90年代、高校生による高校生のためのロックコンテスト「ヨコハマ・ハイスクール・ホットウェーブフェスティバル(通称、ホットウェーブ)」が行われていた。出場をきっかけにデビューを果たした者も多く、現在も活躍する堂島孝平や工藤慎太郎もそのひとりだ。
現在のアイドルシーンを取り巻く環境で、同じように「高校生による運営」で行うのは難しいのかもしれないが、業界各社の協力・調整を前提に、中高生によるアイドルコンテストを行うことができれば、リクルーティングの場として機能し、アイドルシーンの活性化にも繋がるかもしれない。
【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第31回】