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本好きオヤジの幸せ本棚(80)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『ハナカマキリの祈り』(美輪和音/東京創元社 19920円)

 今や“トラウマ”という単語は取り立てて特別なものではなく、よく使われる日常用語と化しているようだ。過去の小さなショック体験、驚愕体験を大げさに話して人を笑わせるため「これって結構、俺にとってトラウマだったんだよね」と使ったりする。だが、もともとは心的外傷を意味する専門用語であった。本作は後者のスタンスに立って、深刻なトラウマがいかに重大な事態を引き起こすことになるのか、克明に描いた小説である。
 主人公の不破真尋は小さな会社で電話オペレーターとして働く20代後半の女性だ。性格は引っ込み思案。進んで男性と交際しようとすることはなく、同性の友人もいない。しかし会社の飲み会の帰りに偶然出会った矢向いづみは真尋を軽蔑せず、心から優しく接してくれた。それどころか、近々旅行会社を立ち上げるのでパートナーになってくれないか、と誘ってくる。
 真尋が臆病な性格になったのは、過去に性犯罪者の餌食になったことがあるからだ。それがトラウマになっていた。前向きに生きるいづみの姿は輝かしく、真尋は強くあこがれた。しかし、関係が深まるにつれ、彼女の裏の顔がほの見えてきて…。
 本作は心理ホラー色濃厚なエンターテインメントで、かつトラウマの克服というテーマを真っ向から追求している。あらためてこの単語が持つシリアスな面を考えざるを得なくなる。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(春日太一/文藝春秋・1943円)

 時代劇、ヤクザ映画、ポルノ…66年の歴史を持つ東映京都撮影所の歴史は、日本の戦後史と大衆の欲望をギラギラと映し出す鏡である。裏方たちへの取材で浮き彫りになった「映画よりも熱く面白い」太秦・東映京都撮影所の舞台裏。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 ライト層を狙った競馬バラエティーというコンセプトを持つ月刊誌が『UMAJIN』(UMAJIN/700円)。1998年創刊後、2度の改題を経て現在に至っている。
 騎手をはじめとした競馬関係者との深いつながりをうかがわせ、予想記事の他に「日本競馬の進化をひもとく名勝負列伝」、未来のスターを目指す馬を選出する「勝手に応援団」、さらに注目騎手へのインタビューなど、バラエティーに富んだ誌面が特徴といえるだろう。
 馬券予想では、師走のジャパンCダート、阪神ジュベナイルF、朝日杯フューチュリティSのG3レースを取り上げ、今さら聞けない初心者向けヒントや意外な法則を伝授。有馬記念は次号のお楽しみということだろう。
 競馬にまつわる関係者のさまざまな人間ドラマを前面に打ち出した、ロマンあふれる記事作りが他誌と一線を画しており、読み物として楽しみながら予想できる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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