ここまで数字が悪くなったのは、ナイトゲームでは従来通り安定したピッチングを見せるのに、デーゲームになると打撃練習のピッチャーのようにメッタ打ちに遭うからだ。
MLBが公表しているデータを見ると、田中は今季、ナイトゲームでは17試合に登板し9勝4敗、防御率3.24、被打率2割2分1厘というハイレベルな数字を出している。この防御率の数字はア・リーグの先発投手で8番目にいい数字だ。
一方、デーゲームでは7試合に登板し0勝6敗、防御率11.81、被打率3割8分8厘という悲惨な数字になっている。
極端にデーゲームに弱いことは地元メディアでも再三取り上げられており、「タナカはドラキュラのように昼がたいへん苦手なので、“タナキュラ”と呼びたくなる」と皮肉られている。
田中は以前からデーゲームが苦手だったわけではない。メジャー入りした'14年から'16年までの3年間のデータを見ると、ナイトゲームでは20勝11敗、防御率3.19であるのに対し、デーゲームでは19勝5敗、防御率3.02。数字はデーゲームのほうがいくぶんよかった。それが今季、デーゲームで炎上が続くようになったのは、いくつかの要因が重なったからだ。
(1)デーゲームではスプリッターの制球が甘くなる
今季、田中はデーゲームで投げる場合、ツーシームにもスプリッターにも投球が甘く入り、それを痛打されることが多い。
このような現象が起きるのは、田中のスプリッターがかなりシュートしながら落ちる軌道を描くため、投げ損なうと、球が落ちずにシュートするだけの、つまりツーシームと似通った軌道になるからだ。
それに加え、田中のスプリッターは時速140キロから144キロくらいで、球速もツーシームと大差がなく、タイミングも合わせやすい。
田中が今季、デーゲームで登板した時の球種別データを見ると、スプリッターは被打率4割6分7厘、被本塁打6本と打たれまくっている。これほど高い確率で打たれたのは、落ちないスプリッターが、打ちごろのツーシームと変わらない簡単に打てるボールになっていたからだ。
(2)ツーシームの軌道がフラットになり被本塁打が増加
今季の田中はデーゲームのフライ打球比率が高くなり、被本塁打が増える結果となった。これはツーシームを打者の手元でシュートさせるため、以前より肘を下げて投げているからだ。肘が下がると横の変化は大きくなるがフラットな軌道になる。そのためフライ打球が多くなり、一発を食いやすくなったのだ。
(3)リード面で未熟な若い正捕手
リードに熟練した女房役がいないことも、デーゲームで炎上が続く要因の一つになっている。
田中がデーゲームで登板した7試合のうち、6試合は24歳の若き正捕手ゲーリー・サンチェスが女房役だった。サンチェスは打撃がウリのキャッチャーのホープで、ホームランの生産力はメジャーの捕手で1、2を争う。肩の強さもトップレベルだ。その反面、キャッチングとボールブロックにやや難があり、ワイルドピッチを出す頻度が高い。
そして、一番の難点はリードがまだ未熟であることだ。
経験不足のサンチェスが、球種の多い田中を上手にリードすることは不可能であるため、昨年8月半ばにサンチェスが正捕手に抜擢されて以降、彼は田中が首を縦に振るまで次々に球種のサインを出し、田中に選択させるスタイルでバッテリーを組んできた。
昨年、サンチェスはルーキーでリードの方にも十分意識がいっていたため、田中と意思の疎通を十分に図っており、球種がすぐに決まることが多かった。しかし、今季は本塁打を打つことに意識がいきすぎ、リード面で集中力を欠くケースが目立っている。田中との相性も急に悪化し、昨年は田中と組んだ時のバッテリー防御率が1.94だったのに、今季は5.34と、ひどい数字になっている。
田中は、安定したリードができる第2捕手のオースチン・ローマインと組んだ時は防御率が3.57と上昇し、好投するケースが多い。しかし、ローマインはリードがうまいものの貧打で、肩も強くない。一方、サンチェスはチームの中心打者で、盗塁阻止率が際立って高い。優先的に使われるのはもちろんサンチェスの方だ。
デーゲームでの登板は、このサンチェスがほとんど受け持っているので、田中はサインがなかなか決まらず、イラつくケースが度々見られる。それが投球リズムを悪くし、失投を多くしている。
ただ、ここにきてサンチェスとも多少息が合うケースも出てきたので、今後のピッチングを注視していきたい。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。