特にイチローに関しては、長い大リーグの歴史にその名を刻むことになる大選手という認識が揺るぎないものになっている。
米国では過去の偉大な選手と現代の大選手を比較することに情熱を傾けるマニアが大勢いて、メディアに「史上最強のホームラン打者50傑」「史上もっとも優れた監督ベスト30」といったランキングがよく出る。リードオフマンのランキングもいくつか発表されているが、どれを見てもイチローは4位ないし5位にランクされている。
左ページの表(※本誌参照)は米国で1年くらい前に発表された『史上最強のリードオフマン・トップ30』(N・I・アレン著)のランキングを基に作成したものだが、イチローは4位。1位は前人未到の通算1406盗塁をマークしたリッキー・ヘンダーソン、2位は通算4256安打のピート・ローズだ。盗塁を重視しているためスピード野球全盛の1980年代に活躍した選手が多数入っているため、現役選手はイチローだけだ。
今年3月に発表された『史上もっとも優れた一番打者ベスト10』(D・フランク著)は出塁率を重視しているランキングで、イチローには不利になるはずだ。しかし、こちらでも5位にランクされており、8位のP・ローズ、10位のR・ヘンダーソンより評価が高い。
それ以外のランキングでもイチローはおおむね5位前後にランクされていて、R・ヘンダーソン、P・ローズ、T・レインズ、C・ビジオらと先頭集団を形成している。
この高評価は重要な意味を持っている。なぜなら野球賭博で永久追放を受けたP・ローズ以外、みな殿堂入りしているため、イチローもアジア人で初めてこの栄誉を手にする可能性が高くなるからだ。
「殿堂入り」は日本では、その値打ちを理解されていない感がある。しかし米国での注目度はMVPやサイヤング賞よりはるかに高い。
選考対象となるのは、引退から満5年以上経過した元選手で、野球記者協会所属の記者による投票で75%以上の推薦票を得ると「当選」となる。21世紀になってからの17年間で選出されたのは31人、年平均1.8人という狭き門だ。投票は毎年年明け早々に行われ、30人前後が毎年新たな選考対象になるが、打撃部門のタイトルを一度獲ったとか、一度20勝したことがあるといった程度の実績では、ほとんど推薦票が入らない。大半は5%以上の推薦票を獲得できず選考対象リストから外されてしまう。
日本人選手では'07年に引退した野茂英雄が'13年に初めて選考対象になったが1.1%の票しか得られず、1年ですぐに対象から消えた。来年1月に予定される'18年度の投票では松井秀喜が初めて選考対象になるが、松井も5%以上を獲得するのは絶望的な情勢だ。それに対し、イチローは1年目に75%以上の推薦票を獲得して殿堂入りすると予想する向きが多い。評価の次元が違うのだ。
★今季のプラス要因とマイナス要因
イチローは今季も4年目の外野手としてシーズンを迎えた。マーリンズは外野のレギュラー3人(レフト=オスーナ、センター=イェリッチ、ライト=スタントン)が全員打線の中軸を担う、活きのいい若手ときている。3人全員が一人も故障しないシーズンになればイチローはレフト、センターで各10試合、ライトで20試合程度しか先発出場の機会を与えられず、打席数も200前後になるだろう。
しかし、そうなる可能性は低い。一昨年、昨年と同様、今季も早ければ4月後半、遅くても5月中には3人のうち誰か故障し、それを機にイチローの出番が増えるというパターンになるだろう。
■今季のプラス要因
(1)昨年からスイングスピードが10年前の全盛期に近くなり、今季もオープン戦を見る限り落ちていないように見える。今のところ足と肩にも衰えは見られない。
(2)昨年のように大記録達成のプレッシャーがない。
(3)昨季までレッドソックスにいた田澤純一が2年契約で入団。
(4)マーリンズはマイナーに外野手のホープが不在で、4人目の外野手の地位は維持できる可能性が高い。
(5)球団ができるだけ長く現役生活を続けさせようという姿勢を鮮明にしている。
■今季のマイナス要因
(1)イチローに好意的だったロリア・オーナーが球団を売却。新オーナーがどんな意向を示すか不透明。
(2)球団はイチローを目玉に'18年3月、東京で公式戦を開催する計画だったが、実現せず、それが来季の契約に影響する恐れがある。
このように今季はオーナーの交代で環境が激変する可能性があるので、スタートダッシュでつまずくことは避けたいところだ。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。