『離れ折紙』(黒川博行/文藝春秋 1733円)
黒川博行といえば関西を舞台にしたピカレスク・ムード濃厚なミステリーを書く作家、という印象を持っている人は多いだろう。1997年に1作目が刊行された〈疫病神〉シリーズでは、トラブル・シューターと経済ヤクザのコンビが活躍する。『悪果』『落英』といった悪徳警官小説も人気が高い。そして、美術の世界で繰り広げられる犯罪や悪だくみを描く小説も得意としている。美大卒、高校の美術教師、という経歴を存分に生かしているわけだが、やはりこの系譜の作品からも特有のピカレスク・ムードが感じられる。
本書は骨董品ビジネスにおける悪だくみ、邪念を前面に打ち出した連作短篇集である。それぞれの物語を牽引するのは美術館の非常勤キュレーター、古美術商、骨董品蒐集家といった人たち。そして皆が高値で売買される品物に深く関わっているが故、贅沢イコール心の充足という単純過ぎる価値観にとらわれてしまっている。表題作「離れ折紙」では刀剣マニアの医師が名刀を手に入れるため同じ趣味のパチンコ店経営者を裏切り、「不二万丈」では贋作を本物として売ったことがバレたブローカーが起死回生の策を練る。
作者は関西弁の会話を操る名人だ。江戸弁とは異なるニュアンスで欲にまみれた者たちの失敗談を生臭くも軽妙につづっている。骨董業界の裏側を教えてくれるユーモア・ピカレスクだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『関東連合 六本木アウトローの正体』(久田将義/ちくま新書・819円)
関東連合。一体、彼らは何者なのか、なぜそれほど影響力を持てるのか。数々の事件の背景には何があるのか−−。著者自身の実体験も交えつつ、綿密な取材・分析から見えてきた、全く新しい“反社会的ネットワーク”の正体に迫る。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
『毎日が発見』(角川マガジンズ/1年購読6800円、定価680円)は50代以上の女性を読者対象とした年間定期購読誌。日本人女性の平均寿命が86.39歳という長寿大国ニッポンにあって、老後からあらためて“自分探し”を始めるケースは少なくない。そうした際の「道案内」をキャッチフレーズに、健康・生き方・趣味などの記事を多彩に展開している。
最新号は「終活」がテーマ。終活とは、人生の終わりのための活動を指し、生前に葬儀や墓などの準備や、財産相続を円滑に進める計画を立てておくこと。『遺言書キット』が話題になったのは2009年だが、その後も根強い興味の対象となっていることをうかがわせる。好評連載中の『きものリフォーム』は、タンスの中の和服の処分が企画趣旨らしく、これも好評らしい。
まだ「気が早い」という声もあるだろうが、オヤジ世代にとっても我が身の今後を考えさせられる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意