「歌舞伎町という土地柄、常連客はそんなに多くない。どこかで飲んで、飲み足りない連中が3〜4人でフラリと入ってくる。店の方針で常連客にはインチキやらない。インチキやるのは一見客だけ。たいがい酔っているから。うちは1合徳利はないんだ。日本酒頼めば、2合徳利ときまっている」
どう使い回しするのか。
「酔って入ってくる客が多いから、2合徳利だと飲み残しが出ることが多い。3人で来て、『日本酒3本』と頼まれれば、6合になっちまう。上げ底だから、実際はそんなに入っていないけどね。飲み残しがあれば、たとえ一滴でも取り置きするんだ。それが徳利1本分になったら、安物の醸造アルコールを注ぎ足して最低でも2〜3本分に増やす。純米大吟醸以外は、ほとんどに醸造アルコールが入っているから、酔った客は特に気づかない」
酔っていない客には、「醸造アルコールの混合率を低くしてやる」から、これも気づかれないという。
「ただし、ヤクザにだけは絶対にインチキやらない。日本酒の使い回しは先代の時代からあって、あるとき、それがバレたらしい。サラリーマンだと思ったのがヤクザだった。30万円で勘弁してもらったそうだけど、そのヤクザが今じゃ親分だ。今でも『元気にやってるか?』とか言って、たまに顔出すけどね」
ところで、話に出てきた「醸造アルコール」は、醸造“用”アルコールのことで、原料はサトウキビの絞りカス、雑穀など。アルコール臭がプンプンして、そのままではとても飲めたシロモノではない。だが、これに白砂糖を加えると限りなく焼酎に近い味になるため、激安居酒屋では焼酎代わりに悪用される。
さほど飲んでいないのに普段より酔いが回るときは、焼酎ではなく醸造用アルコールが使われている可能性が極めて高い。
一般に「清酒」と呼ばれる1升1500〜2000円のものは、米と麹だけで作った酒に醸造用アルコールを加えて10倍近くまで薄めたものだ。
かつて安酒屋には「合成酒」というのがあったが、これは醸造用アルコールに糖分を加えて食品添加物で味つけしたもの。だから、頭が割れそうに痛くなったり悪酔いしたりするのだ。
飲み会が多くなるこの時期は、飲み残しを合成酒で割った酒にぶつかる機会が多くなる。日本酒党には要注意の季節だ。