胸躍らされた凱旋門賞は遠い昔話。突如の年内引退発表に、晴天の霹靂(へきれき)だった禁止薬物騒動、さらには秋天出否のドタバタ劇…。つぶらな瞳のディープインパクトに何ら罪はないが、関係者の不協和音には怒りを通り越し、悲哀すら感じてしまう。
そんなディープに翻弄される報道陣をよそに、われ関せずとばかり、昨年獲り逃した秋天にピタリと照準を合わせてきたのが女傑スイープトウショウだ。
ダンシングブレーヴの肌にエンドスウィープという配合がベストフィット。際立つ悍性のきつさから解き放たれる異次元の末脚は、牡馬を相手にしても一歩も引かないパフォーマンスを披露してきた。
通算<8216>。GI3勝を含む重賞6勝は、歴代の牝馬賞金獲得ランキングを見てもエアグルーヴ(1位)、メジロドーベル(2位)、ヒシアマゾン(3位)といった名だたる名牝に迫る勢いだ。
振り返れば、昨年までは「一度調教で立ち止まったらガンとして動かない。週に坂路でまともに乗れるのは、ほんのわずかだったから普通の馬の半分ぐらいしか量はこなせなかった」と池添騎手。それでも、2005年宝塚記念では後に日本馬で唯一ディープに後塵を浴びせたハーツクライや、04年年度代表馬のゼンノロブロイなどを一蹴してみせた。
それから早1年、円熟の5歳を迎えたスイープは、調教役の山田助手をはじめとする精鋭スタッフらの努力も手伝って、気の向くままに走っていたワガママ娘から大人の女へと見事に脱皮した。
「昨年に比べ、いろいろ精神面で余裕が出てきた。今では400mの角馬場でキャンターを長めに乗れるようになったし、一番馬場の広い(栗東)Eコースとの併用も可能になった。ケイコ量を距離に換算したら、昨年とは随分違うはず」(山田助手)
現実に復帰戦となった京都大賞典(1着)では、休み明け+オークス以来の2400mをあっさりクリア。本番へ向け、幸先の良いスタートを切った。
「これまでの休み明けといえば、詰め寄る競馬しかできなかっただけに正直、息がもつかどうか半信半疑だった」と話す山田助手も、この勝ちっぷりには目を丸くした。「勝負どころで他馬に周りを囲まれる苦しい位置取りだったが、手応えは進路をどう取るかぐらい余裕があったからね」。もはや陣営はディープが居ようと居まいと関係なし。本格化著しい愛馬に絶大な信頼を寄せている。
加えて、唯一の不安でもあった久々激走の反動も皆無に等しいと鶴留師はいう。「レコードが出るような流れだと、その後が怖いが、前走は正味、ラスト2Fだけの競馬。トライアルとしては理想的なステップが踏めた」とニンマリだ。
女傑スイープトウショウがディープに負けない鬼脚で府中の直線を飛んでみせる。