威風堂々。以前の線の細さは完全に消えた。ウオッカは黒光りする馬体を誇示しながら、栗東に君臨している。
「この夏は放牧に出さず自厩舎でじっくり調整してきた。攻め馬も十分に積んできた」と前川助手はうなずいた。
暑かった夏。いくら夏に強い牝馬とはいえ、今年の猛暑を栗東で乗り切るのはかなりの体力と精神力が要求される。しかし、ウオッカは何事もなかったようにこの課題をクリア。それどころか一段とスケールアップしている。
「やりすぎず、緩めすぎず、坂路とプールを併用してほどよくケイコをやることができた」。カミソリのような切れ味と同居する紙一重の精神面のモロさ。女王にとってそれが唯一といっていい弱点だったが、もうその心配はいらない。
「何よりカイバ食いが良くなった。はたから見ていても本当に力強くなった。以前はカイバを食べられずガレたりしたけど、もうそんなことはないでしょう」
この春はドバイ遠征の影響が残り、ヴィクトリアMが478キロ。遠征前の京都記念から16キロも減ってしまい、見た目にも寂しい体つきだった。そんな状態でも自力だけで2着してみせた。不安が克服した今なら、牡馬をまったく問題にしなかったダービーと安田記念以上の強さを見せてくれそうだ。
その自信はローテーションにもはっきり表れている。「牝馬路線を選択しても良かったけど、この馬は世界一の牝馬だから、牡馬と対戦する毎日王冠を選択した。最近はいい意味でイライラしているというか、競馬が近づいたのを感じた時に見せるいい雰囲気を漂わせている。夏場の成果をいきなり見せられると思います」
楽な道の先に進歩はない。ウオッカは王道を進む。過去の牝馬も、そしてこれからの牝馬もだれもたどり着けないような地平まで、女王は走り出そうとしている。