細川氏の出馬に関して、自民党の一部からは、早速不快感を表明する声が出る一方で、脱原発を推進する団体からは、総力結集の好機だと出馬を歓迎する声があがっている。
私自身も中長期的には脱原発を図ったほうがよいと考えているが、それを東京都知事選で争うというのは、あまりに筋が悪すぎると思う。東京都内に原発は立地していない。また、東京都は東京電力の株主ではあるが、株式保有比率は1%強に過ぎない。経営に影響力を与えられる立場ではないのだ。
東京都知事選で争わなければならないことは、他にたくさんある。
例えば、都営地下鉄と東京メトロの経営統合だ。猪瀬直樹前知事は、九段下駅の都営地下鉄と東京メトロのホーム上にあった壁を「バカの壁」と呼び、それを撤去したことで都民の利便性を高めたと胸を張った。だが、壁が取り払われたのは、都営新宿線の新宿方面のホームと半蔵門線の押上方面のホームの間にあった壁だ。つまり、上りホームと下りホームの間の壁が取り払われただけで、そんな乗り換えをする乗客はほとんどいないから、実際のメリットはほとんどなかったのだ。
本当に都民のメリットを考えたら、都営地下鉄と東京メトロの経営統合を考えないといけない。統合されれば、両社の地下鉄を乗り継いでいる乗客は、運賃が大幅に下がるのでメリットが大きい。ただ、経営状態のよくない都営地下鉄との統合に東京メトロは消極的だ。だから持参金をつけてでも、統合を進めるのか否かを都民に問わないといけないのだ。
また、石原慎太郎氏の知事時代に主張されていた米軍横田基地の軍民共用化も、大きな争点になりうる。国際便の強化で、羽田空港は慢性的な渋滞に陥っている。横田に首都圏第三空港を整備すれば、東京都西部の住民の利便性が高まるだけでなく、日本の国際競争力強化にもつながるのだ。
都知事選の争点は、その他にも、医療や介護、商店街の活性化、カジノの是非など、多くの分野にまたがっている。そして、最も大きな争点は、政治とカネの問題だ。今回、50億円もの費用をかけて再び都知事選を実施することになった理由は、猪瀬前知事が徳洲会グループから資金を受け取っていたことだった。この問題は、市民グループの告発を検察が受理したので、司法の手に移っている。しかし、一番問題にしなければならないのは、徳洲会グループから資金を受け取っていた都議会議員が、一人もいなかったのかということだ。
都議会での自民、公明、民主の猪瀬前知事への追及は、明らかに手ぬるかった。民主党は、脱原発を掲げる細川氏を支援する。しかし、同じ脱原発を主張する宇都宮健児氏には興味も示さなかった。宇都宮氏が政治とカネの問題を徹底究明すると主張したことが、民主党が宇都宮氏の支援を見送った原因ではないことを、私は信じたい。