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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★文部科学省の腐敗

 7月24日、東京地検特捜部は、文部科学省前科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者を受託収賄罪で起訴した。

 佐野前局長は2017年5月10日に、都内で東京医科大学の臼井前理事長らと会食し、「私立大学研究ブランディング事業」の支援対象に東京医科大学が選ばれるように事業計画書の書き方を助言した見返りに、息子を裏口入学させた疑いが持たれている。

 当初、この事件は佐野被告の個人的な資質の問題とされたが、腐敗が文科省全体に広がっている可能性があることが、すぐに明らかになった。7月26日に、文科省国際統括官の川端和明容疑者が、東京地検特捜部に逮捕されたのだ。

 川端容疑者は、東京医科大で宇宙飛行士の講演が実現するよう便宜を図り、見返りに数十回にわたって銀座の高級クラブなどで接待を受けたほか、タクシー券の供与を受けた疑いが持たれている。さらに東京地検は、佐野被告、川端容疑者以外の文科省幹部からも、事情聴取をしているという。

 今回の贈収賄が事件化されたのは、佐野被告と東京医科大の臼井正彦前理事長の間で交わされた会話の録音データという決定的な証拠を特捜部が入手したからだが、それ以外にも組織全体に腐敗が広がっていることを予感させる事態も起きていた。

 佐野被告起訴の翌日、7月25日に文科省の現役職員約40人が、信頼回復のための組織改革を求め戸谷一夫事務次官に異例の申し入れ書を提出したのだ。申し入れ書は、部下の視点を含めた多面的な人事評価、若手職員が政策づくりを主導できる仕組み、年次にとらわれない人材登用などを求めている。ピンとこないかもしれないが、私にはとてもよく分かる。

 20年以上前の話になるが、シンクタンクに勤務していた私は、文部省(当時)からの委託を受け、大学や大学院卒業者の長期需給推計をしていた。どの学部にどれだけの就職希望者があり、それに対してどれだけの採用ニーズがあるのかを数字で示す仕事だった。

 その作業中、突然、担当官から電話がかかってきた。「森永が複雑怪奇な予測モデルを作って、文部省を欺こうとしている」と課長が怒り心頭になっているというのだ。文部省に駆けつけた私は、担当官に直接課長に説明をさせて欲しいと願い出た。そのとき担当官は、私にこう言ったのだ。「出入りの業者が、直接課長と口をきけると思っているのか」。

 学校教育という閉じた世界の中のことなので、一般の国民が感じることは少ないかもしれないが、文科省の権力は強大だ。学校の新増設だけでなく、補助金、カリキュラム、人事に至るまで圧倒的な支配力を持っている。その権力が、一部の幹部に集中していれば、腐敗は起きるべくして起きるのだ。

 昨年、組織的な天下りあっせんが発覚したのも、その一例と言える。文科省だけが、進化の過程から取り残されたシーラカンスのように“役人天国”を続けていたのだ。

 幸いなことに、文科省の中でも若手の職員は、まともな感性を持ち合わせているようだ。彼らが腐ってしまう前に、今回の事件をきっかけに膿を一掃しないと、文部科学省の未来はないだろう。

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