「マルチは今年の6月、グジャラート州に大規模工場用地を取得することで州政府と合意した。総額600億円を投じてインドで3番目となる大規模な工場を建設し、2015年から稼動させる計画です。問題は、この誘致を積極的に進めたのがナレンドラ知事だったということ。これで暴動に悲鳴を上げたスズキが工場の建設計画を撤回すれば、せっかくの話が振り出しに戻る。だからこそ、インドで政権交代の野望をギラギラさせている本人が多忙な時間を割いて来日し、インド投資から撤退しないよう説得したのです」
裏を返せばマネサール工場の暴動がボディーブローとなってスズキを直撃、生産再開がズルズルと延期された揚げ句に“撤退のシナリオ”が浮上する事態を恐れていることを意味する。
それにしても、スズキほど海外展開でトラブルに見舞われる会社も珍しい。日本企業全体の世界戦略が注目されている中だけに、“鬼門”とは、よくぞ言ったものだ。
スズキは欧州で積極的に事業展開すべく、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)と資本提携し、2009年1月にVWは19.89%の株式を保有する筆頭株主に躍り出た。ところがスズキはVWによる乗っ取りを警戒、昨年秋に 「資本提携解消」を宣言したが、VWがスンナリ応じるわけがない。そこでVWが保有するスズキ株の買い取りを求めて、国際仲裁裁判所を舞台に法廷闘争を展開中だ。
しかし、結論が出るのはまだ先のこと。インドの暴動を機にスズキの株価が猛然と売り浴びていることから、市場には「VWがダミーを仕立ててシッカリ底値を拾い、ホクソ笑んでいるのではないか」との物騒な観測も飛び交っている。
「VWの保有株を巡っては、増資マネーがタップリあるマツダが引き取るとか、マツダと提携したイタリアのフィアットがスズキに食指を動かしている、といったキナ臭い情報が半ば公然と囁かれている。実際、スズキはフィアットからディーゼルエンジンを調達することになっているのですが、このことがVWとの関係を悪化させたように、スズキを巡っては何があっても驚きません」(市場関係者)
ともあれ、巨大なインド市場からの撤退など到底考えられないのは、スズキだけでなく、日本企業共通の思いだろう。