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プロレス解体新書 ROUND6 〈新生UWFの旗揚げ〉 最強を目指す闘いへの過渡期

 1988年5月12日、後楽園ホール。新日本プロレスを追放された前田日明が旗揚げした新生UWFは、大いなる熱狂で歓迎されるとともに、その後のプロレス、格闘技界に一石を投じることになった。
 「選ばれし者の恍惚と不安、二つ我にあり」
 新生UWF旗揚げ戦『スターティング・オーバー』の試合前になされた前田のあいさつは、今もプロレス界の名言の一つとして語り継がれている。もともとはフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌによるもので、太宰治の小説などにも引用されている(原典では『選ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり』)。
 続けて前田は「選ばれた者としての自負とこのままでやっていけるのかという不安」と、言葉の意味を説明している。
 このフレーズにより多くのUWFファンは、「U戦士はプロレス界から選び抜かれた精鋭」と認識し、また、それを応援する自身のことも「ほかのプロレスファンとは違って真贋を見極める目を持つ者」と、自負することになった。

 カール・ゴッチやシーザー武志、藤原喜明(U参加は翌年)らがオブザーバーとしてリングサイドで見守る中、この日に組まれたのはわずか3試合。
 第1試合 高田延彦vs宮戸成夫(優光)
 第2試合 中野龍雄(巽耀)vs安生洋二
 第3試合 前田日明vs山崎一夫
 所属6選手による対戦カードは、高田戦が手合い違いからエキシビション扱いになるなど、勝敗についての興味はさほど持てるものではなかった。それにも関わらず、チケットは発売開始からわずか15分で完売。後楽園ホールが入るビルの非常階段には、開場を待ちきれないファンが列をなした。
 「チケットが“発売数分で完売”とか“行列ができた”などはバブル期によく見られたマーケティング手法で、発表をそのまま鵜呑みにはできないが、前田の復帰を待ち望む声が大きかったのは確かです」(プロレスライター)

 旗揚げの前年、試合中に長州力の顔面を背後から蹴り上げ、重大な故障をさせたとして、前田は新日との契約を打ち切られた。アントニオ猪木が前田とともに滝に打たれるなど、和解ムードを漂わせながらも、結局、新日復帰とはならなかった。
 「次世代のエースとしてファンからの信奉を集めていた前田。弾圧を受けるほど信者の信仰心が高まる新興教団のごとく、新日からの理不尽な扱いを受けたことで、より人気が沸騰しました」(同)

 新生UWFがどんなファイトを見せるかは、多くのプロレスファン共通の関心事でもあった。
 かつて「ごちゃごちゃ言わんと誰が一番強いか決めたらええんや」と言い放った前田が、新日という既成団体の枠から外れたときに、いったい何をやらかすのか。
 つまりは“ガチンコ”かどうか、それこそが興味の中心であり、ファンの期待をあおるように専門媒体もはやし立てた。中でも〈プロレスという言葉が嫌いな人、この指とまれ〉と表紙に打って、UWFの記事を掲載した『格闘技通信』はその顕著な例であろう。

 では、実際の試合はどうだったか。
 「相手を壊そうが何をしようが、勝利が最優先される闘いを真剣勝負と言うならば、UWFは否です。あくまでも興行を意識したプロレスでした。わずかな所属人数で仲間を潰したのでは、興行が成り立たない。UWFの人気=前田人気である以上は、前田がその看板を背負わなければファンもついてこない。旗揚げ当初、すでにその道の専門家からは『UWFは格闘風プロレス』と喝破する声もありました。ただその一方で、試合形式はどうであれリング上の選手たちが真剣であったことには間違いありません」(同)

 近年になってはUWFを「格闘技をかたったプロレス」と批判する声もあるが、しかしその意見は早計だ。総合格闘技という概念がなかった時代のこと(佐山聡の主宰した修斗が初のプロ興行を行ったのは新生UWF旗揚げの翌年)、真の最強を目指す戦いへの過渡期であり、試行錯誤の段階であったと理解すべきだろう。

 この日のメーンイベント、前田vs山崎の一戦は、新日参戦時にはさほど目立った活躍のなかった山崎の予想外の奮闘によって、大いに盛り上がることとなる。山崎のしなるようなハイキックで前田がダウンすること5回。後のUWFルールであれば、この時点で山崎の勝利である。
 しかし、前田はふらふらになりながらも、ファンの声援を背にここから巻き返す。キャプチュード、ニールキックで山崎を追い込むと、最後は片羽締めで25分に迫る激闘を制した。

 「これからのUWFは自分たちの信じた道を進んでほしい。そして最後まで仲間割れしなかったら最高」
 これは大会直後のシーザー武志のコメントである。

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