どちらの県の取り組みがいいのか、単純に答えは出ないし、新聞の論調も全国紙と地方紙では分かれている。朝日や毎日は特区に好意的だが、河北新報は「合意得られぬ『発車』は残念」(4月11日)としており、また漁協に対する批判も多く、この構想を後押しした元朝日新聞石巻支局長の高成田享氏も著書の中でこう書いている。「漁業権が漁協の既得権になっていて、それを守ろうとする漁業権スクラムには、漁協という組織だけでなく、政治家、役所、学者らが加わっているということだ」(「さかな記者が見た大震災」講談社)
石巻の地元紙・石巻日日新聞の関係者は「地元としては特区に賛成とも反対とも言えない」と苦しい胸のうちを吐露した。同時に、次のようにエールも送る。
「特区に手を挙げた桃浦の若手たちは大変な勇気が必要だったと思う。今のところ、漁協からの嫌がらせみたいなものはないと聞いて安心しているが、特区でやると決めたからには、ぜひ成功して欲しい」
今回、特区が認可されるまでには県議会でも大きな議論があったが、「ほとんどの議員は特区に反対」(県庁職員)という状況だったという。議員としては漁協や漁業者を敵に回したくないということだろう。
「もし、特区がうまくいかなければ、知事の責任を問う声が出てくるに違いない」(同)というから、結論が出るのはまだ先のことだ。
最後に、笠原さんが「企業は儲からないと撤退する」と話したことについて、一つ気になることがあった。今回の水産特区とは直接関係ないが、たこ焼き屋『築地銀だこ』を全国でチェーン展開している株式会社ホットランドが一昨年、群馬県桐生市にあった本社を、この宮城県石巻市に移転させた件だ。
同社は震災後、石巻市内に商業施設『ホット横丁石巻』を開設することを発表し、夏にはオープンにこぎ着けた。震災により職を失った地元の人たちを中心に約100人の雇用をもたらし、この施設の隣のビルに本社も移転。将来的にタコの加工場も建てて、より多くの雇用を生み出すとしていた。
しかし、金融機関筋からの「本気で本社を移すなんて思っていませんよ」との証言をもとに、小誌は本社移転の登記直後に現地を取材、昨年の3月29日号記事『築地銀だこ本社移転の裏』で次のように報じた。
−“本社”の建物は想像以上に小さく、「本気で本社を移すつもりはないのだろう」と、うがった見方をされても仕方ないレベルだった。ホットランド本社広報担当は「本社移転は、当初からの予定通り、1000日間での完了を目標に進めている。加工場予定地もすでに選定済み」と語った。−
さて今回、すでに“550日”ほど経過している“本社”とされる事務所を再び訪ねてみた。ところが、社員は不在で、入居するビルの1階の美容室に聞くと、「平日はいつも誰もいない様子」とのこと。電話をすると、“東京本部”に転送され「事前に連絡をいただければ対応した」(広報担当)という返答だった。
隣接の『ホット横丁石巻』も、今では土日祝日のみの営業となっており、期待された大規模な雇用の創出も疑わしいと言わざるを得ない。
特区しかり、「儲からないから撤退」では、かえって迷惑なだけ。そうならないように願う。