坂爪 僕は、新しい「性の公共」というビジョンを掲げ、障がい者の性など社会の性問題を解決する一般社団法人『ホワイトハンズ』の代表理事をしています。その活動の中で感じるのは、今の社会は「男子が性を語れない社会」なのではないかということです。さらには、僕たち男子というのは、自分たちの性を語るための語彙や文化を持っていないのではないかとさえ思います。例えばAVや性風俗で好奇の目にさらされるのは、常にそこで働く女性です。つまり女性の身体や支配、売買を通して、間接的にしか男子は自らの性を語ることができない。女性の性ばかりがメディアなどでもクローズアップされ、男子の性は全く扱われていないために、性に関するさまざまな社会問題が放置されていると思うんですよね。だから、もっと男子自身が、男子のために性を語る本を書こうと思ったんです。
−−僕らは、射精するために動画や写真を見ながらも『女子高生』『人妻』などの特定の条件を満たしたものに反応していると本書では指摘されています。
坂爪 動画などを見ているとき、僕らは今挙げていただいたような記号が喚起する性的興奮の相乗効果によって射精しているわけです。すると、生身の女性に対しても、そうした表面的なパーツばかりをついついクローズアップしてしまう。そうすると、女性の顔やスタイルといった記号と人格、または中身と外見の区別がつかなくなり、どうしてもコミュニケーションを取ることが難しくなって、人間関係を通して性と触れ合うのが難しくなりますよね。
さらに言えば、僕らの社会では「何が猥褻か」は、国家が司法の場で線引きし、それに従ったり反発する形で民間企業などが性に関する商品をつくり出します。例えば『女子高生』という言葉にいくらかの人たちが反応するのは、他の年代の女性に比べて格段に裸が美しいからではなく、国家が法律や条例によって規制しているがために魅力的に見えるだけにすぎません。1991年を境にヘアヌードが黙認されるようになりましたが、禁止される前と黙認後を思い返すとわかりやすいかもしれませんね。
つまり国家による禁止の反作用として性的興奮を覚えているんです。ということは僕たちを射精に導いているのは、右手でも左手でもなく、国家権力、すなわち“お上の見えざる手”と言えるのかもしれません。
(聞き手:本多カツヒロ)
坂爪真吾(さかつめ しんご)
1981年、新潟県生まれ。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくるために活動している一般社団法人『ホワイトハンズ』の代表理事。