「署まで連行する」
まだ朝食もとっていなかった青木さんは、そのまま半ば強制的に身柄を拘束され、会津若松署へと連れて行かれた。そして、取調室で聞かされたのは、青木さんにとって驚くべきものだった。
「女性に対する強制わいせつの容疑で逮捕する」
同署の刑事によれば、市内に住む主婦、吉野諒子から、青木さんが「夫の留守中に自宅に上がりこみ、私を押し倒して馬乗りになり、上半身を撫で回されたり、下半身をいじられたりするなどのわいせつ行為を受けた」と被害届が出されたというのだ。
これは、青木さんにはまったく身に覚えのないことだった。
ただし、「被害者」の諒子とは、たしかに事件の一週間前に会っていた。といっても、諒子の夫が材木業者で、仕事の話をするためにクルマでその自宅を訪れた。
ところが、時間を約束していたにもかかわらず当の業者が留守だった。すると、「夫はすぐに戻りますから」というので、妻の諒子と40分ほど世間話をしていたが、業者が帰宅しないので青木さんは帰った。わいせつ行為など一切していない。
そこで青木さんは、「そんなことは、何もしていません」と否認した。当然のことである。
ところが、取り調べに当たった3人の刑事たちは、ものすごい形相で青木さんに迫った。
「お前がやったに決まっている。100%間違いないんだ!」
「さっさと容疑を認めろ!」
刑事たちは、青木さんの言い分など聞こうともしない。取り調べではなく、自白の強制そのものだった。
だが、本当にやっていないものを、「やりました」と言うことはできない。それらしき行為があったというのならまだしも、諒子のほうから「家に上がって待っていて」と言われ、ただ世間話をしていただけである。
そして、何よりも容疑を裏付ける証拠がひとつもない。あるのは、諒子が警察に出した被害届だけである。
にもかかわらず、刑事たちは「自白しろ!」「容疑を認めろ!」の一点張りである。それでも、青木さんは否認し続けた。
青木さんの拘留は19日間にも及んだ。警察は送検したが、検察は嫌疑不十分として不起訴処分とした。(つづく)