一応、マクロン新大統領は「EU外」の国境を強化し、不法移民は送還すると公約している。とはいえ、EU加盟国のフランスには、EU圏内からの外国人労働者の流入を食い止めることはできない。そもそも、フランスはシェンゲン協定加盟国であるため、国境におけるパスポートのチェックすらしていないのだ。
筆者は、今回のフランス大統領選挙で最も注目すべき点は、マクロン氏の当選でもルペン氏の健闘でもなく、左翼党のメランション氏が「反EU」を主張し、20%近い票を取ったことだと考える。ルペン氏とメランション氏を合わせると、第1回投票で40%の有権者が「反EU」に投票したことになるのだ。
メランション氏は、もともとはヨーロッパ連邦を支持していたのだが、EUの社会実験の失敗が明らかになるにつれ、
「EUはもう解答でなく、経済自由主義が機構を完全に汚職したことで、EUが必要とする民主化を成し遂げるのを不可能にした」
と、反対に回った。
現在のEUは、モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動の自由化、つまりはグローバリズムの思想に支配された国際協定である。メランション氏風に言えば「経済自由主義」だ。経済自由主義を「固定化」し、民主主義によってすら覆すことを不可能にするグローバリズムの国際協定こそがEUなのである。
EUに加盟している限り、フランスは大々的な失業対策や景気対策を打てない。さらには、移民制限も不可能だ。
フランスの若年層失業率は25%という高水準に達している。全体の完全失業率も10%超の状況が続いている。
ちなみに、
「欧州は社会福祉が充実しているため、失業率が高いのは当然だ」
との感想を覚えた読者がいるかもしれないが、別に欧州の国だからといって高失業率が続くと限った話ではない。21世紀初頭の時点では、失業率が10%を上回っていたのはフランスではなくドイツの方なのだ。ITバブル崩壊を受け、製造業や輸出業が中心のドイツ経済は一気に不況に陥ったのである。
その後、リーマンショック以降にユーロ危機が深刻化するに連れ、ドイツは失業率を引き下げ、逆にフランスは上昇していった。ドイツの2016年の失業率は、何と4.1%。対するフランスは10.1%。まさに、ドイツのドイツによるドイツのためのEUであり、ユーロであることが分かる。
マクロン新大統領の誕生により、フランスはこれまでの「グローバリズムのトリニティ(規制緩和、自由貿易、緊縮財政)」を継続していくことになるだろう。ドイツ第四帝国路線というわけだ。
さて、5月9日には、今度は韓国で大統領選挙が行われ、『共に民主党』の文在寅が勝利した。文在寅の経済政策はなかなか興味深く、「政府主導で経済成長」を掲げている。
具体的には、警察官や消防士、医療・保育の公共機関職員を、新たに51万4000人採用。さらに、公共機関で働く約30万人の間接雇用(いわゆる派遣社員)を直接雇用に切り替える。
財源は、歳入の自然増や予算見直しに加え、「大企業や高所得者層向けの増税」で賄う。
と、明らかに「反グローバリズム」的な経済政策が中心になっているのだ。
韓国は、アジア通貨危機&IMF管理により構造改革を強制され、グローバリズムの優等生として成長してきた。結果、正社員と非正規雇用、大企業と中小企業など、さまざまな所得格差が拡大。過去10年で正社員の月平均賃金は47%増加したのに対し、非正規は25%増にとどまった。また正社員にしても、大企業と中小企業の給与差は2倍に達している。
若年層失業率は国連の国際労働機関推定で10%を超え、「恋愛」「結婚」「出産」「マイホーム」「人間関係」「夢」「就職」の7つを諦めざるを得ない“七放世代”が続出。2015年には「ヘル・コリア(地獄の朝鮮)」と、韓国を卑下する流行語が生まれた。
相も変わらぬ財閥経済。財閥オーナー、オーナー一族、そして財閥役員が、新たな兩班(貴族)として振る舞い、多くの国民は過激な競争からこぼれ落ち、困窮していく。
グローバリズムのまん延で、特に若い世代(40代以下)に蓄積されたルサンチマン(憤りの感情)が、「革命」的な発言を連発する文在寅を勝たせたのである。20代から40代の文在寅支持率は、常に50%を上回っていた。
逆に、50代以上は朝鮮戦争の記憶もあり、北朝鮮に融和的な姿勢を見せる文在寅に対する支持は低迷していた。
現状に不満を持ち、北朝鮮融和政策に拒否感を持たない若い世代と、北朝鮮を危険視する高齢者世代とで、世代により投票行動がまるで異なっていたわけである。
韓国大統領選挙においては、毎回「経済民主化(財閥経済からの脱却)」が叫ばれ、そのたびに「裏切られる」状況が続いていた。韓国の若者たちは、革命的な文在寅が、
「今度こそ、経済民主化を達成してくれるかも」
と、希望を見出したのであろう。
フランスにしても、韓国にしても、グローバリズムにより国民が分断され、投票行為に露骨に違いが出るという点が共通しているのだ。今回の仏韓両国の大統領選挙は、政権選択に際した切り口として「グローバリズムか、反グローバリズムか」が脚光を浴びたという点で、歴史的な意味があったのである。
今後の世界の選挙の争点は「グローバリズムか、反グローバリズムか」が増えていくであろうし、そうなるべきなのだろう。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。