「冬でも生ビールはよく売れますね。忘年会、新年会では、最初の一杯はビールで乾杯が多いですから。形式的なものだから、ビールが好きじゃない人の分も注文されるわけですよ。乾杯が終わってしばらくすると、あれだこれだと注文するから、皿でテーブルがいっぱいになっちゃって、飲みかけのジョッキがジャマになってくる。当然、『下げてくれ』となる。店にとっては、その飲みかけがお目当てなんです」
こう話すのは、JR渋谷駅に程近い居酒屋の店長。覚せい剤で何度も捕まった、ある有名女優のバカ息子が出入りしていた店だ。
「客席から下げたビールは、別の洗ったジョッキに移します。半分しか入れません。それを大型冷蔵庫に並べておくんです。忘年会、新年会シーズンは、飲みかけがいっぱい出るのがわかっているんで、それ用のスペースが取ってある」
冷蔵庫の中は通常より低い2〜3度に設定してあるので、「30分も置けばキンキンに冷える」という。
「冷えた飲みかけにサーバーから新しいビールを注ぎ足したのがAランク。新しいのは半分しか足さず、代わりに安い発泡酒を入れたのがBランク。新しいのをゼロにして、発泡酒だけ注ぎ足したのがCランク。客の酔い加減を見ながらA、B、Cを使い分けます。でも忙しいときは、使い回しも急速回転です。下げた飲みかけをジョッキごと冷やして、注ぎ足しをやって、そのまま出しちゃいます。前の日の飲みかけが冷蔵庫に残っていたら、それも使っちゃいますから」
注ぎ足しを「炭酸水で済ませる」こともあるという。
その結果、ジョッキ50杯が「80杯以上の売り上げになる」というのだ。来る日も来る日もデタラメのオンパレード。従業員に内部告発されないのか。店長は、「最も気にしているのは、そこです」と言う。
「でも、されたことがないんだ。採用するときと辞めるときに誓約書に署名させ、ハンコも押させるから。『店内で見聞したことは他言しない。他言して店が損害を被った場合は、賠償責任を持つ』とね。採用のときはしないけど、辞めるときは、目つきの悪いヤツをわざと同席させる。いかにも怖そうなヤツが友達にいるんで、そいつに頼む。ちょっと飲ませてね。最後にビビらせておくと、効き目抜群だ」