しかし、私は今回の緊縮策の継続が、ギリシャ国民にとって本当に望ましい未来をもたらすのか、大きな疑問を持っている。緊縮策では、経済を立て直すことができないからだ。
ギリシャは一昨年から本格的な緊縮策を採った。しかし、借金のGDP比は高止まりしている。経済が大幅に縮小したからだ。昨年のギリシャの経済成長率は、マイナス6.9%、今年も、ギリシャ中央銀行のプロポボラス総裁が4月に明らかにした見通しでは、マイナス5%になる見込みだ。いくら緊縮を続けても、猛烈な勢いで経済を縮小させてしまったら、財政が立ち直るはずがないのだ。
そもそも、ギリシャが財政破綻に追い込まれたのは、ギリシャの放漫財政だけが原因ではない。その背景には、通貨統合が持つ構造的欠陥があるのだ。
景気対策には、財政政策と金融政策の2種類しかない。景気が悪くなったら、公共事業などの財政出動をするか、通貨供給を拡大するかのどちらかの政策を採らなければならない。
ところが、通貨統合をしてしまうと、通貨の増発ができなくなる。ユーロの発行額を決めるのは、欧州中央銀行であり、ギリシャが決めることはできないからだ。結局、ギリシャの景気対策は財政出動に偏るものになった。その結果として、ギリシャは莫大な財政赤字を抱えるようになってしまったのだ。
その財政赤字を縮減するために財政支出を絞り込めば、当然、経済は失速する。だからと言って、ギリシャに景気対策のための財政出動をする力はないし、そもそもそんなことは、IMFやEUが許さない。
結局、ギリシャがいまの縮小均衡から抜け出す道は、ユーロから離脱して、自国通貨のドラクマを復活させ、思い切った資金供給をするしかないのだ。そうすれば、ドラクマが大幅に安くなり、輸出の拡大や海外からの観光客の増大で、ギリシャ経済は立ち直っていくだろう。
菅総理以来、「消費税を引き上げなければ、日本がギリシャのようになってしまう」と、政府はさんざん言ってきた。しかし、ギリシャの教訓は、まったく逆だ。無理な財政引き締めを行うと、経済規模が縮小してかえって財政状況が悪化し、さらなる緊縮策を重ねなければならなくなることをギリシャは証明したのだ。
日本がギリシャと比べて恵まれているのは、自国通貨を持っていて、金融緩和策が採れることだ。だから日本は、消費税増税という緊縮策を採るのではなく、まず資金供給を拡大して、経済のパイを増やすことで債務を返済できるようにしていくべきなのだ。
ところが、日銀は金融緩和を頑なに拒否している。日銀が実質的インフレターゲットを導入した2月のマネタリーベースの前年比伸び率は、11.3%だった。ところが、3月はマイナス0.2%、4月がマイナス0.3%、5月は2.4%と、強烈な金融引き締めが続いている。自由に金融緩和のできる日本が、その切り札を切らないのは、自爆に等しいのではないか。