日本では「O-157」騒ぎ以来、抗菌グッズが売り上げを伸ばし、公園の砂場まで除菌を行うなど、あまりにも神経質になり過ぎる傾向にある。
しかし、そうした菌の徹底排除が、感染症に対して良策だったといえるかどうか、専門家の多くは疑問を口にする。
前出の藤田教授は、同講座でこう指摘している。
「今や国民の5人1人は花粉症とかアトピーの罹患者です。これは、日本人のライフスタイルに欠陥があるためではないか。その欠陥は、清潔志向が行き過ぎた結果だろうと思う。身近な菌を排除した結果、人の免疫力が低下し、何でもない菌に感染するようになった。衛生環境が非常に向上しているし、抗生物質がたくさん使える日本で、なぜO-157やクリプトピコリジウムなどの感染症にかかるようになったのか。これらは非常に弱い菌で、それまで普通の人は罹らなかったのに、これに感染するようになったのはなぜか」
そして、「近年の日本人の抵抗力の弱さは、ばい菌とか回虫と付き合わなくなったから」と結論付けている。
つまり、回虫や細菌も人類と共生関係にあり、行き過ぎた除菌対策が、逆にさまざまな健康被害をもたらし、感染症に罹りやすくなったというのである。
同じように「行き過ぎたキレイ好きは病気を呼び込んでしまうことを知るべき」と主張するのは、東京医療センター総合内科担当医(感染症)だ。
「私たちの生活環境や、人の口、鼻、胃、腸、皮膚など全身にわたり無数の“常在菌”がいます。常在菌には、それぞれ役割があり、病原菌の侵入を防いだり免疫バランスを保ったり、必要な栄養素を作り出しています。そのおかげで健康が保たれているといえるのですが、除菌や抗菌が溢れ返っている環境では、こうした必要な菌まで殺してしまうのです」(同担当医)
例えば、腸に1000兆個も存在する腸内菌は、ビタミンBやCの合成、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやドーパミンの前駆体の生成と運搬、免疫力のアップなど、さまざまな働きをしている。