こうした場面に遭遇したとき、人は「いつも本当は聞こえているのに、耳が遠くなったふりをしているのではないか?」などと思ってしまいがちだが、そういうわけではない。実際に耳の遠い老人が、悪口だけを例外的にキャッチしてしまう現象はあり得るのだ。
その要因と考えられるのが、声の周波数である。これを説明するにあたって、少し前に流行した“モスキート音”の例を思い出してもらいたい。モスキート音には「若者ほど聞こえやすく、高齢者ほど聞き取りにくくなる」という性質があったのを覚えていないだろうか。あれはモスキート音が、17キロヘルツという超高周波を利用したブザー音だったためだ。一般的に高周波の音は加齢とともに聞こえづらくなる傾向にあるので、同じ音でも若者には聞こえて高齢者には聞こえないという現象が起こるのである。
耳が遠くなるというのも原理は同じで、高齢者ほど高い周波数の音に対応できなくなるために、若者ならば普通に聞こえるレベルの会話も聞き取りづらくなってしまう。
一方、年をとっても低い周波数の音には対応できるので、悪口のように声を落として発する言葉については、普通に聞き取れてしまうのだ。どうしても老人に悪口を隠れて言ってやりたいときは、少し高めの声を意識するといいかもしれない。